RSS1.0 | Atom0.3



「時代を超えて残るモノ」



ーーー 「時代を超えて残るものってなんだろう」


これはつくること、g r e e n のルポの際、僕が話題にあげたこと。


「たとえば、ベートーベンの曲とか、時代を超えて残るモノがある。なぜだろう。」

昔から変わらず今でも語り継がれる、受け継がれる、受け入れられるもの。

それは、データとしてただただ残っていたからではないはずだ。

なぜ残るのか、なんとなく体ではわかっていたと思うが、

その時の僕はうまく言葉にすることができなかった。

でも、言葉にしたくて、その場に投げかけた。


少し考えて、名倉が、言った。

「残したいと思う人がいたから...    残る。

 そういうものをひたすら作ろうとする人がいるし、

 それを残そうとするからじゃないかなと。」


この言葉に僕は、しっくりきて、納得してしまった。

言葉にしたら当たり前のこと。


続けて、名倉は言った。

「それは片方の人だけじゃ絶対に続いていかないよね。

 ベートーベンの音楽しかり、それをいいと思って後世に伝えたいと思うから。

 作る側だけじゃ無理なんだよ。

 勝手に残っていくものはないと思う、どんなに良いものでも。」


なんか名倉に言われると悔しいけれども、すごく腑に落ちた。

作り手と、繋ぎ手の存在。

そして、繋ぎ手でもある使い手の存在。

皆が手を取り合って、時を創っていく。。。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


ARTS&CRAFT静岡手創り市。(2015年秋季申込受付中!)

唐突だが、僕はスタッフで集まる反省会が好きだ。

みんなで顔を突き合わせて、個々が感じたことを発信し、受信する場。

(5月に行った反省会は、こちらのブログにて。【はしもと版】/【あらまき版】

反省会は、手創り市で、一番人と人との違い、類似点、相違点、

そういった個性を楽しめる場だと思う。


僕は、反省会で「何かこうしてみたい」という話が出てくると

「なぜそうしたいのか」と、人を動かす”欲”の部分を聞いてしまう。

その欲こそ、人の個性でもあるから。

僕はその欲をしっかりと把握した上で、その人の提案を見つめたい。

ちなみに、「どうやってやるの」とは、聞かないようにしている。

それはなぜか、もし気になる方がいれば開催日に僕を捕まえて聞いてください。



さて、今更反省会の話を掘り返したのは、今回は、少しスタッフのお話を

伝えたいという想いから。

作り手と使い手を繋ぐ、スタッフたちのお話を。


今年の春、卒業していくスタッフがいた。

今回だけではなく、前回も。

これまで、手創り市では様々なスタッフが入り、そして卒業してきた。

それこそ、僕だってまだまだ新顔だし、昔のスタッフで僕が会ったことがない人もいる。

名倉を中心にその時のスタッフが、その時の静岡手創り市を創っている。


スタッフが卒業するたびにその人の価値を失い、

スタッフが入るたびに新たな価値を得て、5年。

そこにある、ゆっくりとした、でも確かな”歩み”。

それが非常に興味深く、少し考えてみようと、今回思いたった。



冒頭にあった、ルポでのやりとり。

「時代を超えて残るモノ」

長く残るもの、そこには長く残るための”時間”が必要だ。

“時間”を使って作られたモノに魅せられ、その”時間”を繋いでいく人がいる。

そう、”時間”。


僕は思うことがあって。

例えば、器を選ぶとき「こうやって使いたいなぁ」なんて、

使っている自分の”時間”を想像したりする。

作家さんは「こういう形で使ってもらえたらな」なんて、

それが使われる”時間”に想いを馳せて、自分の”時間”を使って作品を作り込む。

それこそ、自分の欲に対して納得がいくまで。

僕たちは、その作品を通してこれらの”時間”を共有し、その作品を好きになる。


時代を超えて残る音楽。

音楽を聴く”時間”。

演奏者が奏でる”時間”。

演奏者たちは、演奏するその時へ向けて、ひたすらに練習する。

そして、演奏した”時間”、そのためにひたすらに練習した"時間”が聴く人と共有され、

聴く人を感動させる。


さらに演奏するものを魅了するのは、作り込まれた音楽。

その音楽が作り込まれた”時間”を演奏者と共有し、この音楽を演奏したいと思わせる。

この、作り込んだ”時間”が、新たに作り込む”時間”を生む。



… この”時間”の源泉はなんだろう?



僕は、人の想いであり、欲であると、そう思う。

「自分はこうしたい」

その想いや欲が、”時間”を使って、なんらかの形で新しい”時間”を生み出す。

そして、人が想いを持って”時間”を使ってこそ、理想を追い求めてこそ、

感じることが沢山ある。

「もっとこうしたい」

もっと、もっと。と欲がでる。

まだできる、という想いになる。


ーーただ、そこで。

"時間"は有限だからこそ、焦らずに、しっかりとできる範囲で創りこむことが大事。

それは、”時間”を大切にし、軽視しないために。

そして、必ず基礎となる部分をしっかり蓄積し、磨き上げていくこと。

それが、どんな時にも自分を支える土台となるから。



静岡手創り市の反省会では、そういった”時間”が見えるようになってきた。

それは、スタッフたちが自分から動いて、実感して、刺激されてきたから。

「もっとこうしたい」という想いがスタッフ一人一人の中にあるなと、

反省会に出ていて感じる。

でも、そうやって、次のステップに少しずつ目を向けられるようになってきたのには。

スタッフが必ずやらなければならないことに、しっかりと取り組めているという

自覚が出てきているのではないか。

そして、それが脈々と受け継がれているからだと感じている。


スタッフが必ずやらなければならないこと。

それは、会場という場を創りあげること。

朝の作家さんの搬入時の応対から、開催中、1日目の夜の見回り、二日目、

そして片付けから作家さんの搬出まで。


場を創るために、スタッフは"時間"を使う。

正直に言えば、誰よりも会場をゆっくりと見て回りたい。

でもこの”時間”は、静岡手創り市では明確に見えないけれども、基盤となる大事な部分。

それは、作り手に対する敬意。

作り手が使ってきた”時間”を大切にしたいという想い。

そのための”時間”を惜しまずに、使うこと。

繋ぎ手としての、役割。


この役割を全うしたうえで、スタッフは自分たちの欲に素直に、

できる限りで挑戦をしていく。

そうした”時間”が、使い手にも、作り手にも刺激を与えていくことを願って。

次なる挑戦は、「MY CUP IS …」


僕たちスタッフは、こうした”時間”を大切にし、

常に会場作りに取り組んでいく。

スタッフが入れ替わっても、基礎となる部分を受け継ぎ、

数々の想いを持ってぶつかった”時間”は、常にプラスになっていくと信じて。

その積み重ねた”時間”こそ、僕の感じた”歩み”の正体ではないかと、今はそう思う。


そして、その歩みには、作り手と、使い手がいる。

この3者で手を取り合って、ゆっくりと歩んでいく”時間”。

誰もが、この”時間”を愛しく思えるような、残したいと思えるような。

そんな場所を作れるよう、スタッフ全員でぶつかっていきます。 


スタッフ高木



ここまでご覧頂き有り難う御座います。

遅ればせながら、2015年春季A&C静岡開催ルポより、
時間を経過しつつ、ようやっと着地することが出来ました。

この記事を書いた高木にとって、
今回の一連の記事は彼の今後の自身の指標にもなりえるものではないか?
と思うと同時に、私たちスタッフの姿を改めて描いたもののように感じます。

今在る場所を知って、足りないことを知り、これからも。

2015年10月の会場にてお会い致しましょう。名倉




【2015年秋季開催について】

2015年10月10・11日

申込期間は6月29日消印〜7月29日事務局必着まで

出展者発表は8月10日





【 ル ポ 】考える g r e e n 〜つくること〜 後編 (スタッフ高木)



 * 考える g r e e n 〜つくること〜 前編 *



初めてのことはいくつになっても緊張するものだ。


ここは埼玉県の某所。

僕たちは約束の場所でバスを降りた。

そして、ほんの少しの時間の後、辻さんがバス停まで車で迎えにきてくれた。

僕たちは車に乗り込み、辻さんの工房へと向かった。


しばらくぶりの辻さんはあいも変わらず、ハキハキしており、好奇心の塊のような方だ。

猫背で舌ったらずな僕とはまるっきり対照的。

そんな辻さんは、生活で使う器を中心とし、花器などを製作されている。



「いつもの器というのが理想です。”いつも使っているやつ、それ取って” みたいな。」


そう語る辻さんの作品は「シンプル」

たどり着いた「シンプル」

いつもの器というコンセプトにヤスリをかけ続け、最後に残ったもの。


形はくっきりとしていて、「削ぎ落とす」という言葉がピシャリとはまる。

色は、白、黒、グレーがメインで、料理をのせることで「色」を持つ器。

そんな姿が、僕はたまらなく好きである。



さて、車に乗って、5分ほどたっただろうか。

辻さんの工房にたどり着き、辻さんの旦那さんが出迎えてくれた。

いつも手創り市にきていただいていて、非常に社交的な方。

まったく僕が見習いたいくらいである。

僕たちは案内されるがまま荷物を置き、少し休憩したあと、工房内の見学へ向かった。



ここは、辻さんの作品の原点。

土練機があり、轆轤があり、作業机があり、水道があり、窯がある。

辻さんは、考え、悩み、ここで作品を生み出している。


器は料理をもるための道具であり、そこに料理があって初めて成立するもの、

と辻さんはいう。


時代とともに料理の内容、家族の形態は変わっていく。

その中でも、いつもの器を目指して。


― 隅々まで納得した作品を作る

― 提供する作品のばらつきを減らす


そのためにプロセスを考え、不必要なものを削ぎ落とし続ける。

作品に触る手数を考え、挽いた器の断面を切って中まで美しくできているかを突き詰め。

丹念に、自分の理想の器を追っていく。


コンセプトを創り、プロセスを構築し、理想とする作品の範囲におさめていく。

そのプロセスには様々な苦労があり、こだわりがある。

これは、どの世界でも通用するものづくりの過程。

僕たちの手に取る作品の裏側で見えないもの。

でも、そのように創ることに執着したからこそ、生まれた作品たち。


そして、その作品たちを手にとって観てほしいから、展示方法にも頭を悩ませる。

いつもの器を目指しているからこそ、やはりまずは手に持ってもらいたい。

だから、値段のシールは器の後ろに。

触った上で、観た上で、「これいくらだろう」と思ってもらえるように。



価格の設定も非常に悩ましい。

作品の価格は、人にとって一番わかりやすいものさしだ。

作家さんは、基本的に1つの作品を作るのに時間がかかる。

作品を売って食べていくためには、時間がかかる分価格を上げなければ飯が食えない。

そこで価格を下げたらただのボランティアになってしまう。


では、時間がかかることで、できることはなんだろうか。

時間がかかるということは、その分一つ一つに気配りができるということだ。

作品に付ける値段に責任を持ち、覚悟を持って日々作陶に取り組む、

1つ1つをじっくり観察しながら、作品を納得いく範囲で創りこむ。

だからこそ、作品に説得力がでてくる。


ほら、綺麗ごとを並べているように見えるだろう。

自分で見ても、客観的に見たらそう捉えてしまう。

でも、実際の辻さんとその作品たちを文字に起こしてみたらそうなのだから仕方がない。


じゃあいったい、なぜ綺麗ごとに見えるのか。

それは、今の時代がそうさせてしまっているのではないかと僕は思うのだ。



近年の、様々なSNSのサービスを例に挙げよう。

SNSには、写真を投稿したり、ちょっとした思ったことを投稿できる。

たとえば、写真をサクッと加工して、なんとなく良い雰囲気にもできたりする。

そして、気楽にそれにいいよねっていうのをもらって満足できる。


ただ、そこで少し立ち止まって考えてみてほしい。


‐‐ 簡単に加工した写真で、感動したことがあるだろうか。

‐‐ いいよね、は心が揺さぶられてでてきた反応だろうか。


時間というコストをかけず、大量生産された作品が氾濫する中で、

作品に執着し、人にグッと訴えるものが霞んでしまっているのではないか。


作り手は作品にかける想いがある。

誰かにしろといわれたわけではない、生まれ出る素直な欲求。

自らの理想へ挑戦し、考え、悩み、でも貫く。

そこに執着し続ける。


そして―――それは結果として”作品”になる。


だからこそ。

時間があるならば、是非とも作品をじっくりと触って、じっくりと観て、

その想いを感じてほしい。

そこに作家さんがいれば、作品を片手にじっくり話を聞いてみてほしい。



帰りの電車の中、心地よい暖房にまどろみながら今日一日を振り返る。

作り手と使い手が、握手して、時を紡いでいく。

そこには美しいと思うほどにまでに執着する作り手がいて、作品があったのだった。


---------------------------------------------------------------------------------


僕がスタッフになって感じたことは、モノへの執着の大切さである。

そのように作られた作品は、その人自身を投影する。

そこに惹かれるようにして、人がつながっていく。

僕と辻さんがそうであったように。

手創り市にはそういった出会いがある。


モノへの執着の大切さ。

僕は、これが、ARTS&CRAFT静岡手創り市の本質であると思っている。

だからこそ、選考を行うのだ。




" g r e e n "

僕らはまだまだ、成長の真っ最中。

もっともっと、執着し、磨き上げていく。

作家さんと、会場に来ていただける方々と共に


=================================================


※ご意見・ご感想は shizuoka@tezukuriichi.com 宛てまでお気軽にどうぞ。


スタッフ高木


・・・


*2015春季「g r e e n」出展者紹介*


*運営スタッフ募集*




新緑から時を経て深まる緑

未熟から成熟への象徴としての

" g r e e n "




ARTS&CRAFT静岡手創り市





【 ル ポ 】考える g r e e n 〜つくること〜 前編 (スタッフ高木)



----- 人がモノをつくり、モノが人をつなげていく。

パッと撮って、サクッと加工して、簡単にいいねがもらえる時代に霞む、

ちょっとしたこと。



2014年、1月21日。

今から一年とちょっと前。

私は、新静岡セノバの地下にあるカフェにいた。


黒、白、赤と非常に明るい店内。

目の前には、そんな店内とは対照的に少し暗そうな、威圧感のある、眼鏡をかけた男性。

そのとなりには、白い服を着た、少しおっとりとした華奢な女性がちょこんと座っていた。

私はコーヒーをのみながら自己紹介をし、女性の質問に一つ一つ答えていた。

正直、その質問にきちんと答えられていたかはわからない。

なにか、私という人形がしゃべっているのを遠くのほうから見ているような、

そんな感じだった。


メガネの男性が言った。

「---  では、面接は以上になりますが、何か質問ありますか?」

あいかわらず、少し威圧感がある。

なんでだろう、と思ったが、少し観察していてわかった。

しっかりとした目をしているのだ。

ちゃんとモノを見据えてくる目。

僕はこの男性のことを、いい、と思った。

この人面白いな、と。



--- 僕は、家電、洋服、雑貨、いわゆるモノ全般が好きだった。

いや、モノが好きだったというのは少し語弊があるだろうか。

モノから「思想」を感じるのが好きだった。

モノを手に取ることで、僕が勝手に想像してしまった「思想」が、

僕の琴線に触れてドキドキする感じ。

いいな、いいなって、それはまるで初恋のような淡い気持ち。


そんな僕は普段、サラリーマンをしていて、ものづくりの現場にいる。

このとき、会社の仕組みは少しわかってきた程度、立ち回りはまだまだヒヨッコ、

とにかく目の前の仕事に没頭し続ける日々だった。

だんだんと仕事を1つ終えても達成感、満足感が感じられないようになり、

「ああ、おわったからこれもやらなきゃな」と単調なリズムでまわる毎日。

帰りが早い日には、罪悪感のような不安を抱えたまま。

そんな自分に嫌気がさしていた。

だから、僕はそのリズムを壊したかった。


−−−−よし、全く違うことをしてみよう!何よりたのしそうなことを!


この時社会人2年目の冬、一念発起し、

僕はARTS&CRAFT静岡手創り市のスタッフに応募することを決めた。





僕の面接をした眼鏡の男性こと名倉は、

僕をARTS&CRAFT静岡手創り市のメンバーに受け入れてくれた。


そこからはスタッフとして、会場の運営などの業務を行ってきた。

静岡手創り市は半年に一度。

一つ一つの仕事をじっくり考え、こなしていくうちにひとつひとつ達成感も沸いてきた。


スタッフには、カフェで働く人、ウェブ関連の仕事をされている人、

工場で仕事をされている人、本当にさまざまな人がいた。

さらに、ラッキーなことに、スタッフという立場を活かし、

さまざまな作家さんともお話をできたりした。

僕は、スタッフになって本当にいろいろな人と出会いをしてきた。


今回、「g r e e n」の企画。

僕はルポがやりたいと思い、手を挙げた。

これまでスタッフとしてやってきて、いろいろな人と出会ってきて、

感じたことがあった。

今回、ルポをさせていただくのは、「器のつくり手」辻 紀子さん

辻さんに、是非とも僕のこの企画にとお願いしたのだった。





今日は2月1日。

空は青く、肌を刺すような朝の空気が気持ちよい。

僕はこれから名倉とともに辻さんの工房にむかう。

まるで小学校の頃の遠足のようにドキドキ、ワクワクしながら。



================= 前編・終了 ======================



次回の更新は4月5日となります。

是非ともご覧下さい。



※ご意見・ご感想は shizuoka@tezukuriichi.com 宛てまでお気軽にどうぞ。


スタッフ高木


・・・


*2015春季「g r e e n」出展者紹介*


*運営スタッフ募集*




新緑から時を経て深まる緑

未熟から成熟への象徴としての

" g r e e n "




ARTS&CRAFT静岡手創り市





2014春季A&C静岡最終ルポ:ハルコヤ女子会

2013年11月。

その日の日付けが変わる頃、そのメールは突然送られてきた。

「・・・路地に入ったところの雑居ビル出入口に水たまりがあって、

そこに照らされたネオン(夜ノ街ですから)と月の灯りが交差した姿が

漆黒の水たまりの中で乱反射するように鈍い光を放っていました。

で、思いつきました。・・・(一部抜粋)」



我らがボス・名倉氏の思いつき。

始まりはいつもそうで、でもそれはなかなかハズれない。くやしい。

私のど真ん中を、そのメールが射抜いてきた。絶対やりたい。ボスの思い付きメールに対して、そんな風に思ったことは今までなかったのに。


すごく個人的なことだけど、この春の開催は、スタッフを「一回お休み」するつもりでいた。

そのメールを読むまでは。

読んでしまった。だからうっかりつぶやいた。


「やりたいなぁ、ハルコヤ。お休みするのやめよーかなあ。。。って、ひとりごと。」

我らがボスは、そのひとりごとを「ふたりごと」にした。

ひとりごと、ふたりごと、さんにんごとへ。。。

こうして、4月の小屋企画「ハル 星まとう コヤ」は動き出した。

それから約半年後、2014年4月。

私はもう一度、ひとりつぶやいた。


「無茶だと承知で言ってみる」

そのひとりごとは、12人の創り手と、1人の絵描き、

3人の小屋娘(スタッフ)との大女子会へと発展した。


前代未聞。

おおごとだ。



*****


橋本(小屋娘1):はじめにお声かけした時、「紺と星と女の子」という設定を送り、みなさんそれぞれのイメージで作品を作っていただいたりしたと思うんですけど、それが今、作品があって、どう感じてもらえているのかなというところをお話していただけたらなと思います。



田中友紀

金工作家の田中友紀と申します。金属でアクセサリーと暮らしの道具など普段作っていて、今回のお話頂いたときに、テーマがすごい素敵だなと思ったのが率直な感想で、何が自分で出来るだろうといろんなイメージが膨らんで。イベントでテーマを設定された企画というのはあんまり経験したことも、聞いたこともなかったので、すごく楽しみでしたし楽しかったです。このまま巡回してほしいです(笑)勿体無いくらい素敵な空間で。純粋に楽しかったです。ありがとうございました。



松本美弥子

磁器の制作をしております松本美弥子といいます。私も、田中さんと一緒でテーマがあるのがあんまり経験がなかったので、いつもは自由にブローチを作っているんでけど、なにかに合わせて作るっていうのがちょっと難しかったので、制作がいつもと違うふうでした。(小屋に)来てみたら、自分の作品というよりは清水さんがベースを作って、スタッフの3人の方々の作品だなという気分で入りました。私は道具になったかんじがしました。3人のスタッフと清水さんに「お疲れさま」と言いたいです。ありがとうございました。


ハナザラ

ハナザラの宮林です。布花を中心にアクセサリーを作っています。お話を頂いたときには、中東にいてホームスティをしている最中で、あんまり考えずに「やります!」ってお返事しちゃったんですけど、旅行から帰ったら現実のメールがいっぱい届いたときには「ああヤバいかな…」と思ったんですけど。一番に思ったのは、ライバルは清水さんの絵だなと思って、清水さんの絵に埋もれると作品がお客さんの目に入らないだろうと思って。他の作家さんたちはとっても素敵というのは知っていたので、そこを目指すと自分の作品が作れなくなってしまうのでとにかく清水さんの絵に負けないように、埋もれないように、自分の世界を出せたらいいなと、それだけを目標に頑張りました。本当にいい経験だったと思いますし、巡回してほしいです(笑)ありがとうございました。


*****


ハルコヤのコンセプトは紺と星座と女の子。

謎の思い付きメールからここにたどり着いたのは2013年12月のはじめ。

絵描きの清水美紅さんにアートディレクター(以下AD)をお願いすると決まった時。

それは小屋担当スタッフ3人、橋本・上門・白鳥(通称:小屋娘)が決まった時。



清水さんの描くふんわりとした女の子たちが、キラキラ輝くアクセサリーをまとったら。。。

そう考えるとわくわくした。

私たち小屋娘たちの想像・妄想も、どんどん膨らんで、それを清水さんへぶつけていった。

必死で。

たった二日間だけど、でも二日間しかないから。

それが、創ることを生業にしている作家さんたちへの、最低限の礼儀で、私たちの責任だから。


*****



サトウカヨ

長野から来ました、サトウカヨといいます。ガラスをバーナーで溶かして作っています。ホントにお話頂いたときは、もう…バクバクというか、すごいびっくりして嬉しくて、無理だと思うんだけどやってみたいという思いだけでお話を受けました。時間のある中ですごく考えて、出来た時にはとっても嬉しかったんですね。今日こうやって、初めて拝見して、こんなふうに飾ってもらえてすごく嬉しいです。ご一緒できてすごく嬉しかったです。これから作っていくにも励みになったので頑張りたいなと思います。



山木常江

陶芸をやっています山木常江と申します。今回、こうやって見てみて、まずホントに綺麗だなと。普段は自分で作っているものをどういう風に見せようかをすごく考えるんですけど、シンプルな空間に置くっていうことしかやってこなかったのでこうやって清水さんの作品のなかに、さらにみなさんの作品と一緒に並べて頂けて、こういう見せ方もあるんだなとすごく勉強になりました。ありがとうございました。



中澤京子

東京で活動しています中澤と申します。普段は刺繍と柿渋の布を使ってブローチを作っております。最初に声をかけて頂いたときは、「楽しそう」ってすごく思ったんですけど、でも「出来るかな?」っていうところも正直なところあって。でもやってみたいし、ひとつのテーマに向かっていくっていうのはあんまり経験ないので、ただ作っていくよりも何かひとつステップアップになるかなと思って挑戦したんですけど。私は、実際に清水さんの絵を見ていたので、自分のものが台無しにしないか、絵を邪魔するんじゃないかなってちょっと最初気になっていて。タイトルに入っている「星」にしようと最初から決めていたんですけど、それからどうしようかあれこれ考えていたんですが、控えめにするなら私じゃなくてもいい訳で、自分の色も「ごめん、出しちゃう!」って、いつもどおり元気いっぱいの色を使ってやりました。テーマっていうひとつの制限じゃないですけど、そういうものがあって、さらに自分の色もだしていくということを色々知恵を出し合っていくのはすごく楽しかったです。小屋に入ってみたら、なんの心配もなくって。それこそ台紙の使い方だとかそういった工夫ですよね。こういう見せ方を見て全然大丈夫だったなって、嬉しく思っております。ありがとうございました。


*****


小さなものがきらめく紺色世界。

その世界を一緒に作ってほしい作家さん13組が決まった。

アクセサリーを主としている方もいれば、器などの生活雑貨を主としている方もいる。

好きやこだわりをカタチにしている人たち。


小屋娘は、いつもそことはかけ離れたところにいる、いわゆる会社員。

毎日、目の前にある書類の山をさばく。新しいなにかを作り出すこともあるけれど、今あるものを何とかしていく人たち。


いつもと違うこと。不安はいっぱいあったけど、とにかくやりたいことをカタチにしようとした。

清水さんの描く女の子にアクセサリーをまとわせたい。どうやって壁に飾る?

「ブローチとか、分かりやすいものに絞って納品してもらったほうがいい(by名倉)」

このアドバイスは無視。女の子が好きなアクセサリーはブローチだけじゃない。

じゃあ、どうやってピアスやネックレスを絵と融合させよう?

販売のときのラッピングは、清水さんにそれ専用の台紙をデザインしてほしい。。。


好きをカタチに。それは予算の壁と、時間の壁とぶつかる。

自分たちの仕事もある。でもやりたいことがあふれてくる。

勤務時間中も、気が付くと絵が浮かぶ。山奥の小屋に、一人閉じ込めて絵をかいてくれている清水さん。ハルコヤのために作品を作ってくれた作家さん。

やりたいことと、できることを一つずつ繋いでいく。

それは一人ではできなかったけど、小屋娘は3人だったし、清水さんがいてくれた。なんとかなる。そう思っていた。


*****


白鳥(小屋娘2)

先ずは、今回のハルコヤ企画に携わっていただいた作家さん・清水さん、その他皆様にありがとうございました。ハルコヤがカタチになり、何より「うれしい!」です。よかったです。清水さんの絵と作家さんの作品がどのように融合できるのか。。。カタチとなると、漠然とした不安に駆られた日々が懐かしいほどです。ハルコヤというひとつの企画を通じて多くの作家さんに力を借り、完成させることができました。作家さんにはテーマに沿った作品・急な依頼等々にもおつきあいいただきありがとうございます。そして、素敵な絵をすっごい環境で描いていただいた清水さんに、ありがとうございます。暗い中にぽつんと光る・・あの光景を思い出します・・・・・

ありがとうございました。



上門(小屋娘3)

私には、想像力が足りなくて。ハルコヤを作っていくにあたって、アイデアは清水さんをはじめ、橋本さん、白鳥さんが出してくれる。私は思いつかない分、実務的なこと、作家さんへ色んなことを案内するとか、納品を受け取るとか、手を動かすことを積極的にやろうと思ったんです。仕事をしながら、ハルコヤの企画に濃ゆくかかわるのは、他のスタッフもそうだと思うけどなかなか大変でしたね。

気持ちが大きく盛り上がったタイミングは3回ありました。

まずは、Satoで清水さんが描いた小屋が完成したとき。

ラフでは見てたけど、やっぱり現実になると威力がすごい。護国神社にこの小屋がたって、作品が壁一面にわーっと飾られたら。。。ってイメージしたら、ものすごくわくわくしました。くたくたになった清水さんの力が、この壁面に込められているんだなと思うと、なんだか感慨深かった。ハルコヤ終わったら、この壁面引っぺがえして家に持ち帰りたい!ってスタッフと話してました。

次の盛り上がりは、作家さんから作品を受け取った時。これは、自宅でひっそりテンション上げてました笑。作業的には、納品書と、作品の点数を確認する。。。ってだけなんですけど、誰よりも早く全作品を見れるという特権で、作家さんから届いた箱を開けながら、感嘆の声を上げてました。全部欲しい、って思ったしハルコヤに来てくれたお客さんもきっとそう思うに違いない!って思ってました。楽しかった。。。

そして最後は、開催二日目の朝、作家さんがあの小屋に、一同に会したとき。あの昂揚感と言ったら。。。

世の中にはきっと、一つのテーマで企画展をする機会がたくさんあると思います。でも、参加した作家さんたちが一緒に集まって、あーだこーだ話す機会ってめったにないんじゃないでしょうか?無謀すぎる召集だったのに、こんなにいい反応をしてくれて。。。

売り上げで貢献しなきゃ!ってプレッシャーも感じたし、やる気もさらに上がった瞬間だったと思います。


*****



Soeurs.

愛知県から来た松内です。ワイヤーとかミシン糸とか天然石を使って作品を作るんですけど。すみません、考えろって言われていたんですが、昨夜も2時半まで呑んでいて…(笑)。もともと地元なので同級生とカラオケに行って(笑)。

お話頂いた時は、「いぇい!やります!」と言ってやったんですけど、テーマを聞いて現実味を帯びてから、「やっちゃたな…」と。いよいよヤバくなってきたぞとホントに私ひとりではけっこう煮詰まることが多かったので、3人子どもがいるんですが、一番上の子がちょうど星座を学び始めた時期だったので、「図鑑持って来い!」と開いたりだとか。私も女子ではあるんですが、いろいろ捨て去ってしまったものがいっぱいあるので(笑)まだ幼い娘達がいるので、7歳と5歳の娘たちと一緒に女の子が好きなものとか娘達が目を輝かせて見るものを一緒に同じ目線で楽しみながら、女の子らしいものとか、息子が持ってくる星図の綺麗なところとか、息子の目から見るきれいな星の部分とかそういうものを一緒に拾い上げながら作っていたので、「ここに飾られたらこんな素敵になるんだ」と。子どもとぐっちゃぐちゃになりながら作ったので。志が低くて申し訳ないと思いながら…。すごく楽しいです!ありがとうございました。



ふるやともこ

栃木県から来ました、ふるやともこです。ガラスと金工を最近始めたので、ガラスと金工を使った作品を作っています。最初にお声かけ頂いたときに、去年始めて出させてもらってからまた来たいなと思っていたので、ただただ「来れるな」と(笑)。それが大きなところで、二つ返事で決めました。それから星座と聞いたときから私はキラキラするものが好きでガラスを始めたというところがありまして、だからあんまり意識せずに自分のガラスを出せばあとは背景になると想像がついたので、なんとかお料理してもらおうというところで作品をやっとこさ作って持ってきたんですけど。実際こうやって見てみて、普段お洋服に着けることを想像して私たちは作ると思うんです。またそういうところと違って、ガラッと変わった雰囲気でモノを見せるというところは始めてだったので、こんなふうに、なんでもない食材がお皿とか飾りかたでこんなふうに出来上がるんだっていう変化の面白さをすごく感じて。巡回というか、ここ2日間だけでは勿体無い展示だなと思ってすごく感激しました。参加させていただけて嬉しかったです。ありがとうございました。



FILIGRANO

東京から来ました、FILIGRANOの倉橋と申します。私は細いワイヤーをかぎ針で一個、一個手編みしてアクセサリーを作っています。やはりお話頂いた時には、テーマとあと清水さんのライブペイントも何度か見たことあったので「え!私の作品で大丈夫なの!?」って(笑)。初めは引き受けるか迷ったんですけれども、なにかひとつのテーマに沿って、他の作品の方とコラボレーションしたりすることがあんまりなかったので、挑戦してみようとで引き受けました。

やはり、やってみたらすごく難しくて、初めて星と星座とかをテーマにしたので、でも、大変ながらもわくわくしながら楽しく作れたのがいい挑戦になりました。実際見てみて同じテーマでも皆さんいろんな表現の仕方があって、本当に素敵な展示になっていて勉強になりました。みなさんのおっしゃるように2日間だけでは勿体無い展示だなと思います。どうもありがとうございました。


*****


好きをカタチにすることは楽しい!

でもそれだけじゃない。想像以上に過酷だった。


納品されるアクセサリーは、素材が単一ではない。布、木、ガラス、金属。。。

すべてを一つにするために、展示台紙を統一することにした。半透明で、それ自体を星座や星の粒に見せたくて、全部カタチが違う多角形に切った。一枚一枚。

それにアクセサリーをつけていく。一つ一つ。。。

気の遠くなる作業だった。。。ブローチだけに絞ればよかったと、一瞬だけ頭をよぎった。。。



作業は開催前の2週にわたって、小屋娘以外のスタッフも手伝ってくれた。

嵐のような大雨の日に、山奥まで来てくれた。その雨の中、ただひたすら、小屋の天井を塗ってくれた。一人ではできないこと。みんながいるからできること。

そうして、当日を迎える。


*****



marumi03

marumi03のまの悠と申します。普段は、本やアクセサリーなどを作っています。最初お話頂いたときはテーマを見たときに「私じゃん!」って思って。普段から好きな言葉が並んでいたので、そのまま出そうと思いました。それで小屋になるって聞いて全然想像がつかなくて、どうなるんだろうって思ってて。実際見てみたら、なんだろう、みなさんの言葉とか詩とか感性とか形にならないものが空間になったかんじで、すごい素敵だなって思って。そのなかにいれるのが嬉しいです。いい経験となりました。普段女子会とかしないので、女子会っぽくしたいので(笑)。女子会っぽいトークをしようかなと。なんか、アクセサリーって、宝石とかアクセサリーとかなんだろう輝くために着けるんですけど、一番の宝石はみなさんそれぞれだと思います!自分が作るものは塩胡椒的なものだと思います。以上です。ありがとうございました。



aei

愛知県からきました、屋号はaeiという名前でやっています。桑山明美といいます。ジュエリー作家としてやっていて、普段は手に届きそうで届かないような美しさをモチーフにしたジュエリーを作っています。私はお話頂いたときは、テーマが女の子と星だったということで、今までの制作のモチーフにぴったりで「これはきた!」と思ってすっごく嬉しくて、家族みんなに言いふらして「こんなの来ました!」って浮かれていたんですけど、実は今日本当は違う予定があって、友人がミラノサローネに通って出展できるってことで、そこに手伝いで一緒に行くってはしゃいでいたんですよ。このお話がきて、これはヤバい、日にちがかぶった…となって迷って、次の日その友人に「私は静岡で頑張るから、あなたはイタリアで頑張ってきて」と言って。実際来て、夢に見た作品たちが揃っていて、お話では作品を集めた展示と販売をするということだったんですが、この自然のなかに、この小屋が建てられてみなさんの作品が集まって、ただ販売をする小屋じゃなくって、インスタレーション作品だなってすごく感動しました。ありがとうございます。



クルテ絵ガラス商店

東京から来ました。ガラスに絵を描いています。クルテ絵ガラス商店です。私も、去年出て、今まで出た出展の中で一番楽しいイベントだったんです、ここが。しかも、清水さんの絵の世界観がすごく好きだったので、テーマも違和感ないもので、ただホントに好きなように作らせてもらって。勝手なイメージはプラネタリウムの中みたいな感じだと思っていたんですけど、それもあるけど、なんだろう、昼と夜の融合というか。こう、なんかすごく…対照的なもののドッキングがすごくびっくりました。すごく斬新です。ありがとうございました。


*****


ここにくるまで、ずっと不安だった。

企画の始まりから、1日目の朝に小屋がたつまで。清水さんの壁画や、納品された作家さんたちの作品を見て、それなりに自信はあった。でも不安だった。

私たちの好きを詰め込んだハルコヤ。みんな、どう思っているんだろう?

まだ目の前にはないけど、あの壁画にあれだけの作品が集まったら、絶対感動するに違いない。でも本当に?


だから聞きたかった。

作家さんたちの声を。どうせみんなその場にいるんだもの。

たった二日間だけの企画展。その二日間だけ、私たちの地元に集まる作家さん。

そう思ったら、言わずにいられなかった。

無茶だと承知で言ってみた。



ハルコヤは、清水さんと、13人の作家さん、周りにいてくれていた静岡スタッフと、我儘で突然のお願いをいつも快く受け入れてくれるSatoのみなさんや大野さん。みんながいたから完成できた。


*****



清水:絵描きの清水美紅です。普段は東京に住んでます。すごい、今、胸がいっぱいです。ほんとうに。なんか、絵を描くって自分に向き合うしかない。私、10年になるんですね、絵を描いて。ずっと、自分に向き合ってきた。でも、今回は自分に向き合うだけでは違うんで、みなさんの作品と向き合っていたんですね。やっぱり、「みんなどう思っているのかな。楽しみにしてくれているのかな」って不安もあって。でも、集まってみたらみんな笑顔でこの小屋の中にいて、今この時間を楽しんでくれているから…よかったって、すごい安心しました。ひとりで向き合うだけではなくて…いろんな人と、一緒にじゃないけど…。一緒にじゃないけど、ひとりも頑張りつつ、でもひとりじゃないのはみんなが、他の支えてくれている人がいるから、もっともっと実感してこれから頑張れそうだなって思いました。すごく、宝物の時間になりました。ありがとうございました。


*****


みんなで作ったハルコヤ。

初日11時からのオープン直後、たくさんのお客さんが小屋に入ってきてくれた。

それぞれの星になるアクセサリーに手を伸ばす。

ちいさな女の子も、同世代の大人女子も、大先輩のおばあちゃんも、みんなが笑顔に。

小屋の壁を切り取ったようなラッピング。

それぞれが持ち帰るハルコヤ。



*****


上門(小屋娘3)

まだ余韻は若干残ってます。

余韻と、売り上げのためにもっとできることがあったんじゃないか、という気持ちがある。またこういう企画に参加したいし、今度はもっと自分なりのアイデアを持って取り組みたい!ハルコヤのスタッフとして参加したことは、私にとって大きな財産です。作家さんからも、スタッフ橋本さん・白鳥さんからも、AD清水さんからも、いい刺激を受けました。皆いろんなこと考えてんだなと、いろんな感じ方があるんだなと。

作家さんたちが言ってくれたみたいに巡回展したい気持ちは山々だったけど!アキコヤとして生まれ変わるのも楽しみです。


*****



13人目の創り手、OTA MOKKOさんは男性。

当日は小田原から来られるため、朝のこの場には来られなかったけど、

「女の人はすごいね」とつぶやいていたとかいないとか。。。



紺色世界にキラキラ輝くアクセサリーの星とみんなの笑顔。

“ひとりごと”を“おおごと”に。

ハルコヤは終わった。

清水さん、作家さん、小屋娘へとつないだバトンを渡す。

ハルからアキへ。





これにて2014年春季開催ルポのすべてが終了しました。

ながいながい記事をご覧下さった皆様へ、

これからも私たちスタッフは、
起きた出来事、感じたモノ・コトを、
言葉の力を借りて、届けてゆきます。
秋の現場でお会い出来ることを楽しみにしております。

それではまた。

※ご意見・ご感想は下記メールまでお気軽にどうぞ。

ARTS&CRAFT静岡手創り市

スタッフ一同





2014年春季A&C静岡開催ルポ・後編『未来会議』


2014年春季A&C静岡開催ルポ・後編『未来会議』



開催二日目の朝、開場前、受付となりのスペースに円を囲み、集まったのはスタッフ6名とハルコヤAD、そしてライターの計8名。

これから展開するのは、ARTS&CRAFT静岡の現状と、少し先の未来をディスカッションする『未来会議』です。司会は私、ライターうえおかでお届けします!



司会・植岡(ライター)→植

名倉(A&C静岡代表)→名 

スタッフ: 高木→高 荒巻→荒 橋本→橋 一生→一 藤本→藤 

清水(ハルコヤAD)→清 



名:「フリートークから?」

植:そうだね。フリートークから……。昨日、やられたの、最初気付かなかったんだよ。何がなんだかわからなかった。しかも名倉くんだけじゃなく、橋本さんもやったんでしょう?

橋:「思いの外、できちゃったから(笑)両手で名倉さんがやるのは、難しいかということで」

名:「失敗したら、もったいないからさ」

植:そういう問題じゃない(笑)

橋:「せっかく万記ちゃん(A&C静岡スタッフ)が用意してくれたのに、(笑)しかも万記ちゃんのちょっとした気遣いもプラスアルファ」

藤:「すごい気遣い(笑)」

橋:「さすが万記ちゃん、わかってる」

名:「仕事出来る子」

清:「仕事出来る」


さて、開催一日目の夜(楽しい月夜の晩)に一体何が行わられたのか?

それは上記の会話をヒントに推測してください。



20140512-2.jpg

(茶色のジャケットが司会進行の植岡さん)


植:では始めさせて頂きます!今回の対談、タイトルは「ARTS&CRAFT静岡手創り市・未来会議」ということで、対談自体が未来の手創り市の企画会議のような感じです。

名:「朝番組だね」

植:よろしくお願いします!

一同:「よろしくお願いします!」


植:では名倉くんから時計回りに自己紹介を。

名:「ARTS&CRAFT静岡代表の名倉です。よろしくお願いします」

植:何か一言。開催一日目を終えての感想を。

名:「二日目だなぁ〜て」

一同:笑。

名:「一日目終わって、二日目の朝って、ちょっとホッとする。と同時に、次を考えてるから少し寂しくも…それが正直なところだよね。ありがとうございました」

清:「終わり?(笑)」

名:「はい」

藤:「今日が終わっちゃうんだ(笑)」


植:では次の方。

高:「新人の高木です」

名:「新人って言われるの嫌じゃないの?」

高:「嫌ですけど、でも今はいいやって思ってます」

植:そっか。ごめん!新人さんって呼んでて。では新しいスタッフで。

一同:笑

植:では一言。

高:「僕が興味あるのは、一日目と二日目のお客さんの違い。それぞれ何を求めて来るのか?ってところが知りたいですね」

植:その違いみたいなところ?

高:「一日目来て、二日目をリピートで来る人がいるのか?とか。昨日はフードエリアが混み合っていたので、今日はどうなるのか?とか」

植:意識が高い。

名:「おお!」

清:「意識が高い!」


植:では、次の方。

荒:「新人の荒巻です。よろしくお願いします」

植:チクリと新人と言われるという。

一同:笑

藤:「チクリ(笑)」

清:「チクリ(笑)」

高:「悪い人だね(笑)」

植:一言どうぞ。

荒:「昨日はあまり会場の様子が観れなかったので、今日はじっくり観て、お客さんの動向を追ってみたいと思います」


植:バッチリ観て、また話し聞かせてください。では次……。

名:「辞める人だけどね」

清:「言わないの(笑)」

植:はい(笑)。司会進行とライターを務めています、今回で辞める植岡です。お世話になりました。ありがとうございました。

一同:「ありがとうございました〜」


植:では次の方。

橋:「橋本です。ハルコヤ担当を今回やってます。夢に見てうなされるくらい、ハルコヤ漬けの半年。特にここ一カ月くらいがどっぷりハルコヤでした」


植:では次の方。

一:「鈴木一生です。植岡さんがいなくなっちゃうのが寂しいなと思いつつ、あ〜いなくなったな〜っていう(笑)」

一同:笑

橋:「解放感?(笑)」

名:「俺には圭吾くん(A&C静岡スタッフ)がいるから大丈夫だよって」

一同:笑

植:ちょっとジェラシーだよ〜(笑)

名:「新しいおもちゃがあるからって」

一同:笑

植:僕は古いおもちゃだから。

名:「だいぶ古い。江戸末期」


植:では次の方。

藤:「はい。藤本です。2年目です。今大学に通っていて制作を続けています。ホントはWEBデザインとか、グラフィックデザインとかやっているんですけど、紙製品や木工の作家もやっています。去年は『むすぶ』や『くらこと』のスタッフもやっていました。今年も頑張ります」


植:では次の方。

清:「清水美紅です。絵を描いています。今回はハルコヤのADとして絵を描いたり、DMをつくったり、視覚的な物を担当させて頂きました。よろしくお願いします」


20140512-4.jpg

(今回新たにスタッフに加わった高木くんと荒巻さん)


植:ではお題に入りたいと思います。

名:「第一問?」

藤:「早押し?」

橋:「この赤いボタン!」(iPhoneのボイスメモ、録音ボタンを指差す)


植:止まっちゃうよ!(笑)では、お題に入ります。まず、スタッフとして、初めての開催当日に考えていたこと。初心ですね。そして今、どんな風に変化したか?や、自分に課していることなどあれば。まず、名倉くんからどうぞ。

名:「第一回目は東京スタッフが殆どで、静岡スタッフは高山と川手さんの二人だけ。最初は東京スタッフだけで開催したようなもので、毎月顔をあわせるメンバーは雰囲気でなんとなくこなせてきてしまって、それをそのまま静岡会場やってしまったら、大変なことになった。それは単純に僕の準備不足でさ。普段仕事で走ってるところを人に見られたくないのに、走り回ってた。だから会場は殆ど観てないんだよね…」

清:「走り回ってた!」

名:「そう。二回目からはシミュレーションとかやらないとダメだなって。約束事や役割をまずはがちがちに決めること。基本的よりもっと強めの、原則をつくってゆくことを決めたね。で、五回目くらいから「まぁ、現場は大丈夫だな」ってなって、それから静岡スタッフが企画をやるようになっていった。で、6回目かな、鈴木くんが小屋をつくってくれて。よりスタッフが主体性を持っていこうって変わっていった」


植:スタッフが企画をやるようになって、スタッフの意識ももどんどん変わっていっている。それを名倉くんはどう見ていますか?

名:「今回、ハルコヤ担当が3人で、担当の当事者以外で共有する余裕が今はないと思うし、とにかく自分たちが思ったことをやること。やってみないとわからないから、それはそれでいい。それよりも、ハルコヤ担当のやってることを周りのスタッフが意識的に見ているかってことの方が大事。それはこれからだよね」


植:では、次、高木くん。

高:「とにかく作家さんと話して考えてることを取り込めたらなと。搬入時に関わる40人くらいの作家さんにはだいたい挨拶して、空いた時間使って話してはいたんですけど。それを今日もしたいな、と。で、作家さんの見てるもの、お客さんの見てるもの、僕らの見てるものを確認したい」

植:で、一日目に気付いたことがあれば?

高:「お客さんの入ってるところと、入っていないところ、様々だけど、入り過ぎててもなんですね、という作家さんの声も聞けたので、その辺を今日深く掘りたい。求めてるものが違っているところがあるのかな?って」

名:「作家さんと…」

植:お客さんが。

高:「お客さんの方がより安くという考えがあるのでは?と思っていて。作家さんとしては自分の唯一の物を見て貰いたい。その辺の話しが出来たらなと」

植:高木くんはすごくコミュニケーション能力が高くって、それを彼に言ったら、「ここへは、コミュニケーションを取りに来てますからね」って。それは体現出来てるなと」

名:「僕と逆だね」

一同:笑

名:「自分の欲求を満たすために来てるからね。昨晩は最高潮」

一同:爆笑

清:「満たせたよね(笑)」

名:「満潮だよ」

高:「話したいっていうのは、僕の欲求ですからね」

植:同じ欲ですね。

名:「お!ポジティブ」


植:では次、荒巻さん。

荒:「はい。私は当日、与えられた仕事をこなすのに精一杯でした。今日は作家さんのブースをじっくり見ると思います」

名:「そうだね。見ないともったいない」

植:自分の中でこれだけは決めていたという気持ち的な部分は?

荒:「仕事は仕事でちゃんとこなす。で、欲しい物のあるので、それをちゃんと確保する」


植:欲・欲・欲って来てますね。では次の橋本さん

橋:「え!? 欲しばり?(笑)」

植:しばらなくていいよ。第何回目からになるんだろう?

橋:「二回目。今回何回目?」

名:「八回目」

清:「え?もう八回目!?」

橋:「最初参加した回は、震災のあった年で、まだ余震とかあった時にシミュレーションをした。10時だか12時くらいから始めて、終わる頃には暗くなってた。で、わからないこともあったけど、当日になればなんとかなる、と思ってたら。警報が出てたんじゃないかって位の雨が降って。只々、雨に体力を奪われていく、みたいな。でも雨天決行がARTS&CRAFT静岡なので、作家さんたちはテントの壁も張っちゃって、今みたいなお客さんの賑わいもなく。すごく閑散として暗くなっちゃって。会場回ってても、自分の興味のある作家さんしか見れなくて」

植:今では現場のリーダーと言われてますけど。

橋:「今は企画をやってるから、会場の方は見て回れないけど、ちらちら見てて穏やかにいってるのかなって。お客さんもたくさん来てくれるようになって。まとまってきたのかなと思っています」

名:「安定感があるよね」

橋:「うん」

高:「ご夫婦の作家さんが、「これまでで朝の搬入の対応が一番良かった」って」

橋:「おおー」

名:「二番でいいのにね。次一番になれるから」

一同:笑

橋:「その都度、更新して行けるように」


植:では次に一生くん。

一:「入る前に何回か来ていて、緑がきれいだなって思っていて。実際スタッフになって、最初は作家さんの器とか作品をそこまで求めてなかった、って訳じゃないけど、僕が高飛車に見てたかなって。でも会場で話しを聞いていくと、この人にはこういう良いところがあるんだって体験出来たのが、スタッフになって最初の回に感じたことですね。それを写真に撮ってたから、他の人に伝えることをやっていきたいなと、思えたというか」

植:それはインスタグラムとか、ツイッターで普段も静岡のことを発信しているけど。

橋:「植岡さんの写真集とかもね。スタッフみんなに送りつけるっていう(笑)」

植:あははそうだね。って、真面目にしゃべらせてくださいっ!

一:「良いことを伝えたいってことですね。それを自分なりの言葉だったり写真で。主に写真がまず重要だから。写真があって言葉があってより伝わるレベルがアップしていく」

植:伝導力がってこと?

一:そういうような意識で写真を撮ってます。

植:え?っと思ったのは、高飛車って言ってたけど。

一:「高飛車って言葉は言い方悪かったですね」

名:「最初どっちかって言うと、プロダクトの方が好きだったんだよね?」

一:「そうそう」

名:「作家さんって全部が全部きっちりコントロール出来る訳じゃないじゃん。作品で精一杯で、その周辺が追いつかない、とかさ。」

一:「やっぱり話すとその人が考えてることがわかるし、自分の幅が広がったんでしょうね」

植:なるほど。

名:「人を知ることによってね」

一:「それってコミュニケーションにおいて重要だなって。それが今の『むすぶ』でも…」

植:活かされてる。


名:「藤本さんその辺のところどう見てる?作家さんのつくってるものと、発信の仕方だよね。君も作品をつくりながら、こういうイベントのスタッフでもある訳じゃん」

藤:「もともと、コミュニケーションのためのデザインを学んでいて、つくり手の側からじゃなくて、そのつくっている人をプロモーションするようなことを学んでるんですけど。結局、作家さんは、アーティストであり、つくり手であるという。人のために役だつ物をデザインしてそれをひとつの商品というか作品に仕上げている。その面からみると、最初はあんまり一致しないかなとは思ってたんですど、意外と作家さんの方でもコミュニケーションの要素が重要になっていて、作家さんが自分でつくって押し付けるんじゃなくて、色んなお客さんからの声を貰って作品に反映しているところとかもあるので、コミュニケーションと作家さんの技術は表裏一体なんだなって」

植:相乗効果ってところはありますね。

名:「その辺僕らも一緒だよね。選んではいるけどさ。自分たちの「こうじゃないかな?」って思いと、お客さんの声、作家さんの声がつながった時。やっぱり良いと思ったことじゃないと身体が反応しないよね。でも自分たちで「こうだな」ってのがあって、それに合致するような意見が来るとさ、やっぱり、動いて行こうと思うよね。その辺は一緒だよね。捉え方は違うかもしれないけれど」

藤:「お客さんありきの商売なので、すごい人との関係が密接なんだなって感じました」


20140512-3.jpg

(左端から、橋本・一生・藤本・清水・名倉・高木・荒巻、BROWN JKの植岡)


植:清水さんは第一回目にライブペインティングで参加してくれましたが、どうですか?家で一人で描くことと、人前で描く事の違いなど。

清:「第一回目は、今より人が気になりました。でも今は、人がいるからといって、作品のモチーフや使おうとする色が影響されるってことはありません」

名:「モチベーションだよね?」

清:「そう、感情面かな。第一回目は音楽もあったからパフォーマンス的要素も強いんですけど、それですごくゆるがされてしまっていた。最初はね」

植:そんな中、清水さんの中で、心の課してたものはなんですか?手創り市という場で絵を描くということについての考えがあれば、聞かせてください。

清:「ライブ。動きがある。手創り市が扱うのは「物」じゃないですか?動かない。でも音楽とかって……」

植:瞬間的に変わっていくもの?

清:「そうですね。そういう役割としてやってみようと思った。最初は「絵」という物が手創り市にあることが、お客さんとの距離を感じる要素になっていたんだけど、それを何とか歩み寄ろうとしていた。で、今回のハルコヤですごく一致した。お客さんとの距離を今は全然感じてない。それにはとても感動しています」



植:次にハルコヤについて聞きたいのですけど。ハルコヤの企画が発生したきっかけから教えてください。

橋:「最初は名倉さんがテンション上がって送って来た一枚の写真があって。それは黒い背景に、貝殻とか石とかがポツポツと並んでるもので。小さい物を集めて何かをやりたいって。それに乗っかって、始まり。私は清水さんと企画をやりたかった。前回の開催の時もそれを考えていたのだけど、「MY CUP is...」の時は、直前になってバタバタ決まっていったから、企画もちゃんと練れてなかったし、結果断念したんだけど。で、春も自分が企画をやっていいことになって、清水さんと絶対やりたいと思っていて。清水さんの絵に小さい物がキラキラある感じ、というのをみんなで話しながら、企画を詰めて行きました。星や星座、紺色の背景や、清水さんの描く絵だから女の子がいてっていう様な所から、清水さんのラフ画が出来上がって、作家さんに声を掛けて、13人集まってくださって。スタッフそれぞれが好きな作家さんを呼んだから、つくるものは多種多様だけど、なんとかするって思った。で、名倉さんはどこかで、今回の企画のアクセサリー=ブローチって思ってたみたいで、でも私たちはブローチだけがアクセサリーじゃない、って思って、その辺りから、名倉さんの意見を聞かないで、女の子だけで、女の子の喜ぶ物をつくっていこうと意見を出していったというか、好き勝手やり始めた」

名:「知ってるよ」

清:「はじめて小屋の中に入った時、キャッキャッしたものね」

橋:「そう。その感じを空間にしたいな、と」

植:橋本さんが清水さんに強く惹かれた理由は?

橋:「色々理由はあるけど、好きだからやりたいと思った」

植:出発点が『好き』なんだよね?

橋:「そうそうそうそう。やりたいこと、ここなら出来るじゃないですか?制限はあるけれど」

清:「私も橋本さんが私と企画をやりたがってるって聞いてて、橋本さんならやろうって思った。信頼してるから。他の人を信頼してないって訳ではないけど、多分、リズムとかフィーリングが合うから。仕事する上でも」

植:僕もここでしかスタッフさんには会わないけど、それでも信頼は生まれるし、その信頼が引き金になって、ルポに変化も生まれたし。それはありますね。

名:「そういうハルコヤの企画を周りから見て、どういう風に見てた?荒巻さん」

荒:「私が入る前から企画は始まってたんですけど、メールの文面だけ追っていてもいまいちわからなかった時に、清水さんのラフ画が送られて来て。うわっ!って。で、展示品もジュエリーやブローチ、女の子の大好きな物だし、これはきっと上手くいくって思って。で、小屋が完成してその中に入った時に、統一された清水さんの絵が、四方にあって、すごく包まれている感があって、幸福感が……」

名:「私を包み込んで」

一同・笑

荒:「それを見て、あぁいいなと思いましたね。同じ世界観の絵に囲まれるってないじゃないですか?美術館行っても絵は面なので」

清:「確かに」

名:「小屋という空間がもたらす効果だね」

高:「作家さんのブースって自分の作品でそのブースの世界観を出すじゃないですか?でもハルコヤは、異質なものが混ざり合って出来てる。その効果が互いを引き上げる。そういう見せ方をした空間があるってことは良いことじゃないかって。そういう目線でずっと見てました。あと、作家さんのブースに行くお客さんって、そのブースにある物で完結させようとする。例えばこのコップが家の棚には合うから欲しい、とか。でも、異素材のものを、家の棚に置いたとしても意外と自然に馴染んだりする。そういう、異素材の物が活かされ合う空間があることで、お客さんに違う感性を与えられるってことは、この小屋ならではで良いなと思いましたね」

一同:おおー!


(ADの清水さんは開催二日間でライブペインティングをしていました)


植:清水さんは今回アートディレクター(以下、AD)を務めています。で、ADとはどういった役割かを考えながらそれに臨んだと思うのですけど、そのあたりのことについて聞かせてください。

清:「学生の頃から馴染みのある言葉ではあったのですけど、それが正確にどういう役割を意味するのかは知らなかった。絵描きでもグラフィックデザイナーでもない。で、今回調べました。ある一つの物を宣伝する時の視覚的な監督。それがAD。なるほどって思ったんですね。でも、監督ってそんな、上から……。それは私には当てはまらない。で、視覚的なものでイメージをつなぐ役目をしようって思ったんですね。絵があって、作家さんが13人いる。見た目的に統一感はなくていいと思う。色んな星がある方が私は楽しいと思うから。それを、色んな物があって楽しいよね?で終わらせるんじゃ意味がないから、絵で作品と作品をつないでつないで、表現するってことを意識してました。とはいえ、全部私からのイメージじゃないから、スタッフさんからのオーダーもあるので、背景は紺色とか、そういった部分は取り込んで自分なりに消化する、それはいつもの絵描きの仕事と変わりませんでした」


植:清水さん自身が、今、この形で完成したハルコヤをどう感じているかを聞かせてください。

清:「すごく良いと思います。最高!(笑)一番良いと思ったのは、さっき作家さんが小屋の中に入ってめちゃめちゃ笑ってたの」

植:どっかんどっかんいってたね。

清:「それが幸せだった。すごいと思った」

名:「あの瞬間がディレクターの着地点だもんね」

清:「?? どうしてそう思う?」

名:「モノと絵、さらに人もつながってこその、仕事だから」

植:良かったですね。あのセッション。

清:「橋本さんがね」

橋:「三日前に思い付き、寝る直前にメールで呟いたら、半分寝かけたところに名倉さんから電話がかかって来て…」

植:電話がかかってきたんだ!

橋:「何言ってんの?無茶だよ、って笑いながら電話して来て。知ってるって、わかってるって。メールに無茶だって書いたじゃんって。でも、やりたいからやった。やりたいことを伝えたらそもそもわかってくれた作家さんだから。物理的に来れなかった人もいるけど。ちゃんと見て欲しかったし、どう思ってるのか聞きたかった。開催始まっちゃったら、作家さんたちは見れないし。一同に集まることってまずないじゃん。ここは昨日、今日の二日限定だし。やりたいことが出来るかもしれないんだったら、やってみようって。で、今、全部叶った」

清:「すごいよね。頭の中で想像したことって目の前に起こすのってすごく時間が掛かる。すっごく大変だけど、それが出来たことってすごいことですよね」

橋:「清水さんがいたから出来たかな」

清;「橋本さんがいたから」

一同:笑


(ハルコヤセッション。またの名をハルコヤ女子会。二日目の早朝のこと…)


植:一生くんは今度のアキコヤを経て、来年のハルコヤを企画すると聞いているのですけど、今回の対談や、完成したハルコヤを見て、気付いたことや感じていることがあれば。

一:「春は『グリーン』というキーワードから始まって、小屋からはみ出して、わーっと盛り上がっていくことをやりたい。今回のハルコヤは、小屋だけの空間で終わっちゃうのがどうかなと思っていたんですけど、清水さんの絵だったりとか、さっきのハルコヤ・セッション、記念撮影だったりとか、そういう盛り上がったムードがずっと続いていくような企画をやりたいです。今、清水さんから色々意見も貰えたので、より共有出来たというか」


植:一週間、木藝舎の「Sato」に泊まり込みで絵を描いていたということですが、どんな気持ちで絵に向き合ってましたか?またどんなことを考えましたか?

清:「うん。率直にいうと、すごく大変だった。でも、作家さんも大変。スタッフさんも大変。自分だけじゃないって考えてた。だから頑張れた。また、一人きりを楽しみにしていたんですよ。一人きりを覚悟していた。でも、スタッフさんも来てくれて、ご飯食べたりして。一人きりを覚悟してたんだけど、人と会うってことが多くて。それも制作に含まれるなと思った。人がすごい好きなった」

植:それは清水さんにとって変化?

清:「うん。変化。一人にはなれない…」

植:ということに気付いた。

清:「なんでそう思うのか?絵を描いているとやっぱり孤独を感じる。でもいい孤独なんだけど。というところにちょっと酔ってたんですかね?私一人で頑張ってる、みたいな。あ!それだ!そうじゃなくてもっと人に頼ったりとか、甘えようと。もっといい作品をつくろうって。ハルコヤって良いって思ってて。あんまり自分の絵だって思ってない。自分の絵だけじゃないから。絵を描いた訳じゃなくて、ハルコヤをつくったから」

名:「清水さんが製作期間に感じたことは、スタッフがSatoまで来てくれたからこそ感じた訳じゃん。それが作品にあらわれたというよりも、橋本さんが三日前に無茶を言う、そういうところにつながっていると思うんだよね。想いや、気持ちの部分だから言葉に出来ないこともあるし、絵に描けない部分もあるよ。でも、それが確実に僕には伝わったから、電話苦手なのに夜中に電話かけてさ…伝播していくよね? 伝播しないような人たちとは一緒に出来ないし、やれる訳ないの。結局、そういうのを引き継いでいった方がいいんだろうな。みんなにとって。関わり方は人それぞれでいいと思うんだよ。それは普段の仕事、生活もあるから。でも、伝播してゆくことを感じるって、みんなであって欲しいなって思うよ」


植:では、ハルコヤの話はこのあたりで。ありがとうございました。

清:橋:「ありがとうございました」


20140512-1.jpg

(むすぶ組の一生くんと藤本さん。秋にむけて或るモノを制作中?)


植:次は『むすぶ』の話しを聞かせて頂きたいのですけど。まず、一生くんが『むすぶ』を担当するようになったきっかけを。

一:「僕がよく鷹匠に行っているもんで、名倉さんから声が掛かって。で、普段写真に力を入れているのもあって、写真を活かしながらやっていこうという流れに」

植:一生くんはよく写真を好きで撮ってますよね?

一:「別に好きじゃないんですよ。好きとか嫌いとかってあんまり関係ないんですよ」

名:「コミュニケーションだよね?」

植:手段?

一:「すぐ「好き」とか言われると、僕も「好き」か「嫌い」かなんて、すぐに理由はわからない。「好き」か「嫌い」かに区別するのは僕は嫌いなんですよ。例えば、洋服の「ミナ」好きでしょう?とか言われるんですけど「ミナ」だけじゃないし」

植:トータルでいかにまとめるかってこと?

一:「トータルって言葉に近いですね」

名:「トータルっていうか、プロセスでしょ?過程があって、それが好きだから最終的な着地点も好きになるんだよね」

一:「はい」


(昨年末にリニューアルされた『むすぶ 鷹匠』。是非ともご覧下さい。)


植:では、今後の『むすぶ』の展開について。

一:「鷹匠って街に手創り市がもっと入り込むような、イベントなりを具体的に仕掛けていきたいです。歩いて色々キョロキョロして欲しい」

名:「歩くということが重要なポイントかもね。この会場も歩くでしょ?歩く速度とか、歩く距離とか。車だったらどこにでも行けちゃうし」

一:「ただお店の中に行くんでなく、お店以外の目的というか。草だったり、街並の中に猫がいたりとか。植岡さん猫大好きですよね?」

植:猫大好きですよ!って突然ふられても(笑)。藤本さんは何かありますか?

藤:「地元だったので協力出来るかなって思ったんですけど、私も知らない素敵な所がたくさんあって、鷹匠を再確認するきっかけになりましたね。あと、鷹匠で取材していたら、月に一度だけ開かれる手作り市がたまたまその日やってて、色々な人たちと話して、あれよあれよと言う間に、近所でアトリエ持ってる人が「今度遊びに来てくださいよ」ってことになって、私がつくってる物を置いてもらえることになったんです」

植:歩くことで、そういう突発的な出会いが発生するように『むすぶ』を発展させていけたらいいね。

藤:「前に一生さんに見せて貰った、紙媒体のマップ・小冊子があって、そういう物もつくりたいなって。『鷹匠・お散歩マップ』」

名:「高木くんや荒巻さんから見て、『むすぶ』にこういうことを挟みたいってある?お客さん目線ではなくて」

高:「僕の感覚からするとなんですけど、写真もすごいし、コンテンツもいいんですけど、ちょっと遠い存在な気がする。非常にお洒落で、気高い感じがする」

橋:「身近な街じゃなくて、雑誌の中に載ってる東京の街って感じがする」

高:「あのコンテツンはあのままで良くて、もう一歩手前につなげる何かがあるのかなって」

藤:「あれが常設ページとしてあって、特集ページがもっとあればいいのかなって。もっとサイトに動きがあってもいい気がする」

一:「動きは確かに遅いですね」

藤:「もっと気軽な感じで、『鷹匠に咲いてるお花ベスト』とかあってもいいのかな」

植:散歩って歩くじゃん、動画で撮ってつなげるみたいなことは出来ないの?静止画にこだわりたいの?

一:「それは見ないんじゃないかな?」

名:「逆に、なんで動画?」

植:たまに街を歩いて、動画でそれをつないで作品にしたりしているのだけれど。結構面白い物が出来るというか。歩くリズムとかで景色が変わっていく感じとか。ま、ジャストアイディアなんだけど。

一:「誰か作成する人を入れて、マップはあってもいいかな。柔らかい要素をプラスする上で」

高:「お店の魅力を伝えるのか?鷹匠の魅力を伝えて、みんなで盛り上げていこうとしているのか?それがより鮮明になれば。お店単体で取り上げてしまうと、お店だけの紹介に個人的にはなってしまうので。こういうお店がある街の紹介でいくのか?こういう雰囲気の街だからとにかく足を運んで、その中でこういうお店があるっていう文化的な感じでいくのか?それが出来たらいいなって」

荒:「『むすぶ』のホームページって見難くないですか? 何がどこにあるのか?パッと見てどうすればいいのかわからない。動線もわかりづらいですね。『むすぶ』自体は好きなんですけど、見難いかなっていうのが第一印象でした。見難いホームページって足を運ばなくなる…」

清:「一秒、ですよ。ホームページって」

荒:「何が更新されたかもわかりづらいので」

藤:「トップページが変わるだけでも動きがあるように見えますよ。そこから特集ページに行けるように出来たらいい」

橋:「パソコンで見るのとスマホで見るのとでは違うじゃん。鷹匠でスマホでも見やすい?」

一:「あぁー、スマホだと見難いですね」

橋:「出来たら、街にいても見やすい、活用しやすくなれば」

一:「それはずっと思っていて。高山さん(A&C静岡スタッフ)に、変更お願い出来れば」

橋:「出来る出来ないはきっとあるんだろうから、案をどんどん挙げていって、諦めなきゃならない部分が出て来たら諦める。植岡さんの動画だってそうだけど、それがそこにハマるかどうかはわからないけど、やってダメだったら切ればいい。出来ることはとりあえずやってみたらどうかな、なんて」

清:「橋本さんが言ったように、とりあえず提案してみることが大事だと思う。それも視覚的なもので。絵を描くのが苦手とか個人差はあるかもしれないけど、自分で描いてのもの。その方が伝わると思うし、それが『むすぶ』本来の目的、伝えるってことだと思うから」


20140512-5.jpg

(キャトルエピスさんよりクレープの差し入れ。ごちそうさまでした。)


植:では、『むすぶ』の話はここで締めて、最後に、秋の手創り市でやりたいことがあれば、聞かせてください。名倉くんから。

名:「春でやったことを引き継ぎつつ、一生くんの来年のハルコヤ企画、植物、GREEN。これは面白いと思う。前に一生くんがみんなの前で企画を発表した時、みな注目していたし、その想いは伝わったと思うから。具体的に会場でどう見せていくかとか。そういうことを一生くんに投げておしまいじゃなくて、考えてく。秋がそのための第一歩というかさ。みんなでそこに行くために。で、春は一生くんの考えてることをより形に出来たらいいなと。あとは『むずぶ』。会場で、紙媒体だけでなく、小屋と違った形の装置を。持ち帰ることはできないけど、見て触れる体験ができるようなものをつくれたらいいなって。あと、植岡さんは今回のルポが最後じゃない?半年に一度の開催だから続けていきたいし、スタッフ内でやれる形を考えていきたいなと。で、少なくとも今のルポよりは良くしたいな、と。それは、簡単だけどね」

一同:笑


植:次は高木くん。

高:「個人的に小さくむすびたいなって思っていて。作家さんだけでなく、この人話し掛けても大丈夫だなってお客さんに話し掛けて、作家さんと三人で話したり」

橋:「ルポ岡さんからルポ木くん(笑)」


植:あはは。では次、荒巻さん。

荒:「私も同じ感じなんですけど、作家さんともっと絡んでいきたいなって。まだ恥ずかしくて、会釈されても会釈で返すのが精一杯で。今日、これから、グイグイ絡んでいきたいです」

名:「その「こんにちは」って時に、一歩前へ出れば作家さんはきっと嬉しいよ。お互いに」

高:「『場所』使えますよ」

植:愛知から来たんですねーとか。

橋:「さすが」

名:「やらしい」

清:「ホント、高木くんコミュニケーション能力高い」

橋:「コミュ木さんだ(笑)」


植:では橋本さん。

橋:「小屋は秋にバトンを渡すので、現場のことに戻るのかなと。でも、私がやらなくても会場は回っていってるし。初めての二人もすごいしっかりしてるって聞いてるし。心配しなくていいのかなって思う二人なので。もっと、エリア6からフードエリアに抜けるようなことをしたい。一生くんたちのやる小屋と会場全体を回ってく何かを考えられたらと思います」

植:橋本さんは、ハルコヤの企画で得た経験を現場に活かす形で、色々出来る気がしました。

橋:「作家さんと話が出来るようになったから、作家さんとも対話を持って、会場全体で何かグルグルグルグル回せるようになればいいですね」


(アキコヤは一輪挿しの展示を進めております。公募も実施予定!!)


植:では次、一生くん。

一:「一輪挿しってテーマで秋は小屋をやる。それにむかって行きたいですね。あとは『むすぶ』なんですけど、ここで見る体験を得て「あ、鷹匠行ってみよう」となるようなものもつくりたいし、大野さんに撮影して貰って、展示会をやって頂くのもいいし、色んな人を巻き込んでやって行きたいですね」


植:では次、藤本さん。

藤:「鷹匠のお店で雑貨を置いてる作家さんと手創り市の参加作家さんがダブってるっていうか。そういう作家さんを集めた『鷹匠枠』とか」

名:「作家さんを切り口に、鷹匠を紹介していくってことだよね」

藤:「そうです!」


植:では最後に清水さん。

清:「私はアキコヤを。それと昨日、ライブペインティングをしていた時、子供と絵を描いてたんですよ。子供と絵を描くって良いなって思って。私も塗りたい!僕も塗りたい!私も描くし、子供も描く。昨日、初めて絵を描くって体験をした子供もいて」

植:それは良いですね。そういえば、今回は会場に多くの走る子供を見た気がします。子供もアクションを起こしたくて仕方ないのかな?だからそういう衝動を活かせるような何か、清水さんとのでっかい絵であったり。

高:「子供って素直で我慢出来ないんですよ。やりたいとすぐ行っちゃう。だけど大人になると我慢することを覚えるから、ホントは大人も参加したいと思ってるんですよ。でも我慢しちゃう。そういう大人を巻き込めたらいいですね」

一同:ああー!

清:私も初めて子供を意識したんだよね。いつも大人に向かって描いていて。でも子供って思った。なんだろう? 大人もいいね、確かに。

高:「子供は素直だからやりたいって言えるんでしょう?」

清:「大人は『私は絵が下手だから』とか…そんなことはない。下手なんてことはないから」

高:「子供も一緒なら、子供も大人も巻き込んで」

清:「いいね。お母さんが○を描く。そこに子供が色を塗る、とか。お父さんは△とか」

植:僕もやりたいな。

清:「お父さん???」

植:いや、独身代表として□を描く!

一同:笑

清:「独身男性は、□。独身女性は○」

藤:「この○を描いた女性は?!みたいな…」

植:「むすぶ!」

一同:爆笑

植:ということで。

一同:ということで!

植:『未来会議』ありがとうございました!



またしても長文でしたが、お付き合い頂きありがとうございました!

「うえおかのルポは長い!」

「短く編集出来ないのか?」

と言われ続けて、早三年。

出来ることならとっくにやってます。

僕のルポが長いのは、あらゆる物事の魅力は細部に宿ることを熟知し、それを余さず伝えるためです。というのは半分うそで、単純に伝えたいことが多すぎるのです。

その「伝えたいことが多過ぎる」が、ARTS&CRAFT静岡や、すべての会場の手創り市の魅力ではないでしょうか?

なんて、今に思うのですが、いかがでしょうか?


これで、僕の「手創り市ライター」の仕事は終了です。

最初から最後まで、一貫して通したことは「誰の真似もしない」でした。

だから、この三年間は多くの雑誌や本をシャットアウトして来ました。

故に、文章や構成のクオリティに上達は見れなかったかもしれません。

しかし、生身の人間としての言葉、感じ方、コミュニケーション能力、

そしてその対話から得たものの伝え方は、少し手に入れられた気がしています。

それが今は、単純に嬉しいです。


長い期間、僕の駄文にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

そして今まで僕のライター活動に協力してくださった皆様、

深く感謝しております。

これでルポ岡は、ARTS&CRAFT静岡のスタッフに、ルポのバトンを渡します。

これからもARTS&CRAFT静岡手創り市、そして会場ルポは続きますので、

よろしくお願い致します。


ではでは!近いうちにまた!どこかでお会いしましょう!



うえおかゆうじ


追申 


最初のルポの時も「これが最初だ」とは思わなかったし、

最後のこのルポも「最後」のつもりで全然書いていません。

それが僕の性格なんでしょうね。



これで2014春季A&C静岡開催ルポ全編終了です。

…と思いきや、

最後の最後にハルコヤ・セッション(ハルコヤ女子会)の更新が御座います。

更新は5月16日。

是非ともご覧下さい!!



ARTS&CRAFT静岡手創り市





2014年春季A&C静岡開催ルポ:前編・2部

*2014年春季ARTS&CRAFT静岡ルポ:前編・1部*

clicls!! clicks!! clicks!!




2014年春季ARTS&CRAFT静岡ルポ:前編・2部





楽しい月夜の晩を一夜明け、開催二日目。(楽しい月夜の晩についてはまたの機会に)

曇りのち雨が心配されていたのもなんのその、今回も天気は晴れのち曇りで持越しました。


朝六時半。正面鳥居前にスタッフ全員と、清水さん、そして僕が集合。

OHNO CAMERA WORKSの大野さんのご厚意で、今回も集合写真を撮って頂くことに。


(大野さんは今回も「未来のあなたへ」で、会場内の池のほとりにて、

 ポートレイト撮影を行ってくれています)


結果、またしても男性陣は真顔。女性陣は笑顔という、はっきり色がわかれつつも調和の取れた写真を撮影して頂きました。





大野さんはこの後、あるスタッフの突然のアイディアによって実現した対談、「ハルコヤ女子会」(ハルコヤの作家さんたちと、ADの清水さん、ハルコヤスタッフ3人による談話会)の撮影までして頂きました。本当にありがとうございます。


ハルコヤ女子会の最中、小屋の中からは、笑いがどっかんどっかん起こっていたのが印象的だった。その様子から、セッションに参加したみんなが、それぞれに満たされているかのように感じられた。


ハルコヤ女子会が終わると、次は、受付の横に八つ椅子を並べての対談会。

僕が司会を務める、「ARTS&CRAFT静岡・未来会議」だ。

その詳細は、第二部のルポでお伝えします! こうご期待!!


二時間近くを「未来会議」に費やした僕らは、それぞれの思いを胸に解散。持ち場に戻る。



次にお話しを伺ったのは、器やブローチなどをつくる作家、松本美弥子さんだ。



朝、ハルコヤの女子会(対談)がありましたよね?

小屋の中から笑い声がドッカンドッカン響いてましたよね?


「最後の最後なんだけど、自分の中では、あ、こういうメンバーでひとつことをやっていたんだな、とわかって良かったです」


それはより達成感につながりましたか?それとも確認?


「なんか、わからなかったんですよ。メールで文字を追ってるだけで、どういう形になるのかわからない。わからなかったから面白かったというのもあるんですけど。清水さんの絵があって、作家さんたちの作品があって、今朝見てみて、「あ、こういうことか」と。確認かも(笑)」


なるほど。


「ハルコヤはスタッフさんたちの作品でもあるじゃないですか? 朝の対談で、私は『道具になれた』というようなことを言ったんですけど、でもそれは悪いことじゃなくて、最終的に清水さんと彼女たちスタッフが完成させたんだなって」


パズルのピースがはまるみたいに、ですかね?


「そう。道具って言うと聞こえは悪いかもしれないけど、そういう意味じゃなくって、ひとつひとつの作品を展示して貰ったんだけど、作品が主役じゃなく、あの完成した状態、ハルコヤ自体がただひとつの作品だと思ったんです」


ありがとうございます。では次に、屋号「jacinthe」について聞かせてください。


「フランス語のヒヤシンス。ヒヤシンスは球根から咲くけど球根ってすごくないですか?

外からの養分も必要とはするけれど、球根ひとつであんなきれいに咲くってところが。憧れね。ああいう風に、自分の中に持っているものを守って、自分なりに咲けたらいいなって。わかります?」


外の影響も受けるけど、大切なのは、自分の中にあるもののボリュームを上げていくというか、そういうことですかね?


「それは球根が出来る段階で色々な人に影響や栄養も貰って、自分の中でつくり出してるとは思うんだけど。いさ本番で、自分の強さ、力で、ポンって上がって来れる。そういう強さに憧れるというか」


おお〜。


「憧れね。憧れ。自分はそんなに強くはないのだけど」


では次は、弱さについて。何か思うところあれば聞かせてください。僕の最近のテーマは「自分の意志の弱さと向き合う」なんですけど(笑)。人が変わる時って、まず、ありのままの自分を直視出来て、初めて変わり始めるじゃないですか?


「変わるのは難しいし、見詰めるくらいしか出来ないんだよね。時間掛かって見えないスピードで変わっていって、振り返った時に、少し変わった自分に気付く。私のテーマは「苦手なことに挑戦する」だけど、やってみると、色んなことがわかるよね。自分のダメなところとか。だから良かったと思ってる。苦手なインタビューも受けて」


引き受けて頂き、ありがとうございます。


「去年は動きがスムーズ過ぎて、自分が動かなくても周りが持ち上げてくれて、少し怖いな、いい気になってやってたらいけないんじゃないか?って思って。苦手なことをやってみることにしました。自分のダメなところを知りたい訳じゃないんだけど、ダメなところがわかれば変われるかなって。自分が面白がって仕事したいから」


変わり続けること、成長し続けること、自分を更新していくこと。それがあると、自分自身楽しめますよね?楽しみのレベルも変わっていくというか。


「あまり飽きちゃって、楽につくっちゃうと、自分でつまらなくなっちゃうかなーと思って。自分にストッパーを掛けつつ。新鮮な気持ちでつくらないと、ものづくりはダメだなと思うから。手を動かせばつくれちゃうけど、それじゃダメだなって。今は、自分のことを知るために、嫌なことから逃げずにやってます。大した何かがある訳でもないのだけど。理論的にも考えられないし、感覚でやってます」


その感覚は「線」が通って見えますよ。フワフワしてたりとか、色々な感覚があるじゃないですか?刹那的な感覚ではなく、つくりながら直感を感覚に変えている感じを僕は受け取りますけど。それを一本の「線」に感じます。


「ありがとう。良い様に言ってくれて」


いえいえ。では最後に、ARTS&CRAFT静岡の改善点があれば。


「この雰囲気が定着していますよね。だから小屋企画とか動いてるから、スッタフさんたちが新しいことをやろうとしているから、この手創り市が新しいものに変わり得ることもあるじゃないですか? れが楽しみです。やってみないと、後戻りするか、先に進むか、わからないけど、やってみたいって思い続けることがいいことじゃないですか?」




次にお話しを伺ったのは、若い女性のお客さん二人だ。


初めて手創り市に来た時の感想を。


「こんなことが静岡でやっていたのか!って驚きました」


「一周目だと、目星は付けられても決められない。だから2周目は、右から攻めて。次は左からとかやってました(笑)」


手づくりのものはお好きですか?


「好きです」


では、その理由があれば教えてください。


「一個一個違うから楽しい」


「作家さんと会える。つくってることが好きでやっていると思うので、大切に使おうと思います」


その「大切に使おう」っていいですね。きっと手創り市側も、作家さんも、そういう気持ちを持って貰えたら嬉しいと思いますし、そういう気持ちを持って貰えたらと思ってやっている側面もあると思いますよ。


「そうですよね。ありがとうございます」


ありがとうございます。





次に、清水さんのライブペインティングの様子をと思っていたら、小屋のあたりから清水さんに笑いながら手招きされた。

行ってみるとそこには、20代であろう女の子が四人、にこにこと笑みを浮かべ立っていたのだった。彼女たちは清水さんの会社の同僚で、なんでも、清水さんの手掛けたハルコヤを観るために、はるばる東京からやって来たのだという。

ここは僕が司会をするより、清水さんが司会をした方がしゃべりやすいということになり、彼女たち4人と清水さん、僕というメンバーでの、グループインタビューが始まったのだった。





清水さん(以下・清):みんなありがとう。


一同爆笑。


清:みんな私より後に入社してるじゃない?わたしもみんなを教えたことあるし。最初絵描きですとかわざわざ言わないじゃん。でもだんだん話していく内にやっていることとかわかってくるでしょう?で、いざ、今日観に来てくれたね。どうかな?違和感ある?


「ないね」


「しみ(清水さんのあだ名)はいつも真剣だから」


うえおか(以下・う):おおお!! ちなみに、しみって呼ばれてるの?


しみ:私が呼んでって言ったの(笑)


う:おおお!!かっこいい!!


「普段、パソコンとか服を扱ってるの」


「でも、もっと真剣だった」


「活き活きしてる」


「泣きそうだった私」


「なんかね、感じるものが、普段とは違うものがあった」


「実際観たことないから。ホントにきれいよ」


「すごいきれい」


しみ:やったー。


「人の心をゆるがせるものがある」


しみ:あるある(笑)。


「なんかね、しみ、そのものって感じがするんだよね」


「する」


「でも、いつも仕事中もめっちゃやさしいです」


「年齢関係なく、誰とでもしゃべるし」


「空気を明るくする」


「しみがいないと寂しいよ」


「早く帰って来てね」


しみ:帰って来るよ。


「一週間いなかった時、すごい寂しかった」


う:すげー愛されてるじゃん!ちょっと泣きそうなんだけど(笑)


一同爆笑。


「愛されてるよね」


「愛されてる」


う:でも、それはしみも愛してるからでしょう?


しみ:そうだね!愉快な仲間たちに囲まれて、こうして安心して仕事をしている。


う:すごい良い仲間に囲まれてるんだね。


「仕事も絵も両方すごい頑張っててすごいと思う」


「全力投球」


「こういうところでも、普通に話してくれるのが嬉しい。「あ、来たの?(上から)」とかならないし、いつも通りにしてくれているのが」


「自然で」


清:自然で。


途中、以前僕が、たまたま清水さんたちが働く職場に、偶然、面接に行こうとした話しや、その後、また偶然にも、清水さんの職場の隣のビルで働いていた話しなどで盛り上がったが、そこは割愛しました。


何はともあれ、清水さん。すごい良い仲間に囲まれてる。それはやはり清水さんの人柄が引き寄せた縁であり、互いに惹かれあった結果でもあるとつくづく思った。


清水さんの同僚の皆さん。ルポにご協力頂き、ありがとうございました!


こうして、普段画集を眺めるほど好きな絵描きさんの、知らない面が垣間見れたこと、その垣間見れたものが、ものすごくあたたかで純粋だったこと、今でも強く印象に残っています。ホントに彼女たちの会社に転職させて貰おうかと思いたくなるくらい、そこには大きな安心感がありました。





次にお話しを伺ったのは、お客さんとして来てくれた名倉くんのお母さんだ。


「前回は風にゆられて、偶然の出来栄えっていうか、そういうものがあったじゃない?今回は、止まってる壁に描いているから、感じ方が違う」


前回のライブペインティングでは、清水さんが描いているところを三時間観てらしたという。お母さんは更に話しを進めた。


「前回は、描いている過程を一緒に追っていけたのが良かった。でも今回の小屋の絵は、すでに完成しているもの。そこに感じ方の違いがあるのだと思います」


前回は変化する要素があったってことですよね?


「そう。色がだんだん薄くなったり、濃くなったり。この絵(ハルコヤ)は、まだ少ししか観てないからわからないけど、これで終わりなのかなぁーって感じ。どっちが良い悪いの問題ではなくてね。前は、楽しんで観てた。二、三時間。ちょっと目を離した隙にもうあんなに変わっているとか、線ひとつでも変わっていくじゃない。出来上がればこれと一緒なんでしょうね」


ハルコヤには入った感想を。


「中に入ると、外に誰かいるかを忘れる。だからもっと早い時間に来れば良かった。一人で観たかった。例えば、朝六時とかに一人で入ったらすごいと思うんですよね。でも、この間の布の方が良かったのよ。二、三時間観ていても飽きない。どこでどう変わるか、目が離せない。これだと勿体ない。もっと大きく、小屋の倍くらいのサイズだったら、彼女の良さが活かされると思う」


次にお話しを伺ったのは、硝子作家・liirさんのところで『wakuwaku bell work』のワークショップを行ったばかりの、男性のお客さんだ。



「ARTS&CRAFT静岡に来たのは二回目です。最初に来たのは一番最初の開催で、今日は久しぶりの静岡。単純にお客さんも増えてるし、食べるところもいっぱいあったし、すごい楽しい」


ワークショップをやられたみたいですけど。どんな工程があったんですか?


「自分の好きなベルを選んで、ベルを鳴らすおはじきみたいなものを選んで、針金くるくるっと回して、紐をつけて、ベルを鳴らす部分をつけて完成です」


一個一個、違う音が鳴るんですよね?


「一個一個微妙に違います。小さいのは高い音が鳴ったり。大きいのは低い音が鳴ったり」


このサイズだからこの高さって予想しながらつくれるものなのですか?


「単純に小さいのは高い音が鳴ると思うので」


そういう説明はありつつ。


「説明はなかったですね。普通のお客さんは大きいのがお得って思うかもしれないですね(笑)」


お客さんの場合は、高い音が欲しかったから、高い音が鳴るものを見つけてって感じですかね?


「そうです」


出来上がった音はどうですか?


「聴きたいですか?」


聴きたいですねー!


「鳴らしましょうか?」


お願いします。


わざわざ梱包を解き、ベルを出してくれたお客さん。そしてベルを振り、チリチリと鳴らす。硝子が硝子に当たる特有の高い音が響く。


ワークショップをやってみてどうでした?


「お試しだけど、自分の手で何か出来上がるっていうのは嬉しいですよね。ただ買うだけじゃなくて教えて貰ったり、コミュニケーションを取る、楽しいことだと思います」


liirさんのところで、こんなことを話したな、という何かエピソードはありますか?


「僕は音楽をやっていて、ライブとかでも楽器を使うんで、このベルをそこで使わせて貰いますっていう風に言ったら喜んで貰えました。あまり男一人で参加する人はいないから(笑)」



最後にお話しを伺ったのは、染め物作家の仕草さんだ。



ARTS&CRAFT静岡に出てみての感想は?


「手応えはすごくありました。工房を新しく構えた関係で、自分の環境が変化したと同時に、作風とかも若干修正している部分があって。そういう部分でお客さんの反応がどういう風になっていくかって不安もあったので、自分の中で手応えとしてよかったかなと」


作風を修正したというのは?


「今、抽象画っぽい作品が出始めて来ていて、言葉ではなかなか表わせないことを抽象に託すというか」


そのきっかけは?


「子供も生まれて一回りしたっていうか。人の成長過程って面白くて、誰しもがそれを経験するように、プロセスを組んで貰ってるっていうか。巡り合うものが全部、たぶん、その人にとっての最高の教材のような。与えられてるものだと思うんですけど、そういう過程で、わりかし若い頃は欲を満たすために動いている。成功したいとか。自分が好きなものをつくって評価されたいとか。最近は逆に、静かになる方向に進んで行っているというか。そういう感じで、その精神性の部分が作品に反映された感じです」


影響?


「影響されないとおかしいですよね。自然とそういう風になっていってる感じなんですよ。ものづくりしていてもそうなんですけど、ある種、単純作業というか、反復作業の中に没頭していくと、思考が止まって、無風状態というか。精神のバランスの取れたいい状態に入っていけることが多々あるんですけど。作品を観て、それを感じれるものだったらすごくいいなって。音楽にも、ロックのようなエネルギーってものもあれば、心が静かになっていくようなものもあって、そういう物を自分でもつくれたらなぁーって」


個人的な話になるんですけど、二十代の頃、僕はビートの効いたテクノを聴いてたりとかしたんですけど、やがてアンビエントにはまっていく、みたいな感じですよね?


「一緒ですね(笑)もちろん、ビートのあるものを否定する訳ではなく、ただ、静かになっていくってことは間違いないなっていうか。自分の中ではそれが本線という感じがしていて」


染め、注染の世界に入って行ったきっかけを。


「最初、漫画を描いてたんですよ。その頃は自分一人でちまちまやる作業がやりたかった。で、漫画仲間とフリーペーパーをつくり始めて、Tシャツをつくろうという話になり、じゃ、染めてみようと。そこで、草木染で有名な、山崎青樹さんって方の本を手にして、いいなぁと思って。たまたまそのフリーペーパーも「仕草」って名前でやってたんですよ。で、仕草の「草」と「草木染」がシンクロして、で、始めました。初めは、野外の音楽パーティーで売っていて、パーティー行きたさに染める、みたいな」


あはは。なるほど。


「一人で漫画を描いてても現実的ではなくて、Tシャツに出会ったことで、傾いていくんですよ。楽しいし」


Tシャツの方が社会とのつながりが強かった。


「そうですね。そこで初めて自分のやっていることと、社会がリンクし始めて。2000年の頃って、環境問題とかが話題になり始めた頃で、わりかし社会的な運動も含まれたムードの中で、代々木公園のアースガーデン(野外パーティー)とかに出て、毎日物づくりをやっていて。草木染ってものも、環境チックな感じもあったので。エコとかが普通の言葉になる前の時代だったので、マイ箸を持っていたりとか、ナチュラルな石鹸を使っていたりとか(笑)。野外パーティーにはそういう意識を持った人も多くて。だから僕は、クラフトから入っていった訳ではないんですね。カウンターと言えばカウンターなんですけど。ひとつの社会運動に入って行くことで、自分を見出していたというか」


「その後、田舎暮らしをされてる方に会って、WOOOF(ウーフ)っていって、宿を提供して貰う代わりに労働力を提供するっていう制度があって。当時、ホントにそういう生活がしたかったんです。実際に田舎暮らしを目にして実感して帰って来て、ああ、出来るなーと。手に職を付けたいなってことで、草木染をやっていたんで、たまたまハローワークで注染の現場に飛び込んで。で、自分がやってきた草木染と注染の技法が意外とマッチしそうだなって思って。休みの日に工場で設備を借りて、自分の作品をつくりつつ色々試して、三年後に独立に至りました。退職後に長野に移住したという」


「手拭いって生活に密着した道具ですよね。それもあって、思想も、ふれ過ぎないところに落ち着き始めたんです。もう社会なんて!みたいな、自給自足をするんだ、みたいなところに来てたんですけど、クラフトがきっかけになって、子供も出来て、自分と引きで見れるようにな環境になっていった。それが最初の抽象につながるんですけど」


仕草さんは手拭いをつくるにあたって、全ての工程を自分でやっているじゃないですか?


「染料を買っているものもあるんですよ。ただ作業工程は外注ってことはないんですよ。デザインして型を起こしてのりを付けて染める。一通りの工程を全部やってるんですけど、注染自体がすごく職人の世界、分業の世界で。職人さんって反復による熟練なんで、機械になるじゃないですけど、身体も道具の一部になるというか。職人さんのすごさとは違う部分を自分は求めた。たぶん創造性だったり、自主的に何かをやるって部分でその世界にはどっぷり浸かれなかったと思うんですよ。でもある種これって、自分でハンドルを切るじゃないですけど、欲求なんですよね」


「で、成長のプロセスに話が戻っちゃうんですけど、全部自分でやりたいって欲求を追ったんですよね。で、最近はハンドルを切らない方向にシフトし始めています。考えるのを止めるために考えてるみたいな。一見矛盾しそうなんだけど、それを矛盾させずに成立させたらすごいだろうなって。そういう感覚に入って入っている感じなんですよ」


それは図柄としての抽象につながりますよね?


「結局そこなんですよ(笑)あと、わりかしマインドの部分で社会にゆさぶられて、苦しんで生きて来た部分もあるので、それはそれで大変なんですけど、繊細っていうのは逆に色々なことに気付けるなっていう。そういう意味でありがたかったかなと。職人さんをやっていても良かったと思うんですよ。最初からそれでいいと思えたんだったら。でも自分は違ったので。自分で選んだというよりは、選ばされて来た。自分の中にあるものが多分それを求めたので。そこに乗ったら、流れるままに」


流れ、ありますよね?


「そう。流れを見るのが結構好きかもしれないですね。自分でつかみに行こうとするとその流れって見え辛いっていうか……。どうしてもそういう話しになっちゃうな……。で、ある程度自分でつくり上げた土台があるので、その上で精神性のある物をつくり出せたらなとは、今は思っているんですよ」


ありがとうございました。


命の運び、と書いて「運命」。仕草さんが従った流れは、実はそういった深い流れのようなものかもしれない。自分の意識の深い部分の流れを、仕草さんは、「自分でつかみに行こうとすると、見辛くなってしまうから、引きの目線で見極めたい」という。





冒頭で僕は、僕個人の話、書く事の動機から始めた。

そして次に、引きの目線で手創り市を俯瞰し、手創り市は、半歩先を行く新しい社会の縮図ではないか?と問題定義を行った。


何かをつくるということは、正解のないクイズに、自分なりの回答を試みるのに似ている。だから、何かをつくり出す人々は、常にそのクイズにさらされ、世界に問いを投げ掛け続ける。そして世界もまた、新たなる問いを投げ返す。その繰り返し。繰り返し。

(そしてたまに、両者の答えが合致するかのように、シンクロニシティが起きる)

そんなことを想う、今日この頃である。


これで「2014年春季ARTS&CRAFT静岡ルポ:前編1部・2部」を終わります。


ルポ後編はは、ADの清水さん、ライターの僕、残り6人のスタッフ、計8名による「ARTS&CRAFT静岡・未来会議」をお送りします。


今回も長文でしたが、最後までお付き合いありがとうございました。

結びの言葉は後編の結末に譲り、一旦失礼致します。


うえおかゆうじ


*一部写真提供*

A&C静岡スタッフ 鈴木一生 ★☆★



2014年春季開催ルポはこのあとも後編へと続きます。

是非ともご覧下さい!!


ARTS&CRAFT静岡手創り市




2014春季A&C静岡開催ルポ:前編・1部


2014年春季ARTS&CRAFT静岡ルポ:前編・1部


五年前、手創り市にライターとして関わるようになった頃から、言葉を生業にしてつくることと、自分の生活が直結するようになっていった。


つくることの動機は、単純に楽しいから、書く事が一番エキサイティングだから、というシンプルな理由だった。それはごく個人的な理由だ。


そんな折、2013年春季のARTS&CRAFT静岡のルポで、ユーカリカシテンさんに取材をした。

インタビューの最後に、一緒に連れて来ていたお子さんにメッセージを残すかのように、

ユーカリカシテンさんは言った。


「ここってプロの方も、それを目指してる方も両方出てると思うんですけど、基本はみんな、好きを仕事にしてる事だと思っていて。好きを仕事にするって事が当たり前だって事を子供に感じて欲しい。それが当たり前で『選択肢のひとつだよ』って事を肌で感じて欲しい」


ユーカリカシテンさんのその言葉は、それまで自分の中で考えていたあることが、明確になる瞬間でもあった。



さて、ここに一冊の本がある。

たまたま入った本屋で見つけたこの本は、NHKのテレビ番組のテキスト。

社会科学者であり哲学者のエーリヒ・フロムの著書「愛するということ」を訳者・鈴木晶が、この本の軸となる思想に視点を合わせ、わかりやすく説くというテキストだ。


詳しい内容は割愛するが、現在は「愛を勘違いしている」というような内容からこの本は始まる。

メディアを見渡しても、そこには「いかに愛するか」という情報ではなく「いかに愛されるか」というもので蔓延していると。

フロムのいう愛は「能動的」な「技術」であり、「いかに愛するか」を常に問い掛けながら、自分を高めていくこと、相手と高め合うこと、それが愛であると説く。


そして結びに、現在の資本主義社会では、フロムのいう愛は成立し得ないだろうと。

何故なら、現在の社会は「交換の原理」で成り立っており、そこには必ず「見返り」を求める意識が働くこと。そしてこの社会は、愛などいらないとする人間や個人を孤立に向かわせるかのようなシステムが働いていることを指摘する。


その最中にあって、真に愛ある社会が実現するには、この先、どうすればいいのだろうか?

そんな問いかけでこの本は終わる。


さて、何故に恥ずかしげもなく、アイアイアイアイ述べたかというと、先に述べたユーカリカシテンさんの言葉、「好きを仕事にする人たちが集まる場所」。そこに、時代の半歩先をいく社会の縮図があると思っていたからだ。


手創り市という社会の中心にあるもの。そこで交わされるもの。また蓄積されていくもの。そんなことを今回のルポの裏テーマにして、僕はいま、キーボードを叩いている。

最後までお付き合い頂けたら幸いです。



見上げると新緑を広げた木々の葉がそこにあった。しかしその木漏れ日のしたには、まるで秋の様相のように、からし色の枯葉が多く落ちている。

春を迎え、ひと月が経つのにも関わらず、今年は昨年に比べ肌寒い印象をはっきりと受ける。


朝八時過ぎ、名倉くんのお父さんがスタッフのためにつくってくれた大量のサンドイッチを両手に抱えながら、僕はザクザクと砂利を鳴らし境内に入って行く。


作家さんに挨拶をしながら、受付を目指す。

見知った作家さんと目が合うと、挨拶をし、時には短い雑談を交わし、果てにはサンドイッチの具を問われつつといった具合に。


開催前のこの時間が、僕は好きだ。


ブースを見渡すと、屋根や側面の布を取り払ったテントが、昨年よりも更に多いように思った。こんな風に、まず、テントの様子から入ってしまうのは、手創り市ルポライターとしての職業病のようなものだろうか?とふと思う。



受付に着き、サンドイッチを引き渡すと、僕は「ハル 星まとう コヤ(以下・ハルコヤ)」が気になって仕方なかった。

今回の小屋企画は、画家の清水美紅さんがADを務め、その小屋の内側壁面すべてに絵を描いたのだ。


清水さんは自身のブログで、「ハルコヤ」の壁画完成のプロセスを語っていた。

(彼女は、足久保にある木藝舎「Sato」に場所を借り、一週間泊まり込みで絵を描いた)

一人で絵に打ち込むのを楽しみにし、覚悟していたが、思いがけず、そこにはたくさんの人の助けがあり、自分は一人ではないということに気付く、というようなことが語られていた。そして、誕生日を前にして、人生をはじめて美しいと感じられた、とも。


そんな彼女の絵が早く観たかったが、残念ながらその時間には、まだ小屋は完成していなかった。


僕はひとり境内を何週もする。

池の端でアメンボを眺め、それをおじいちゃんに嬉しそうに報告する小さい男の子の声が響く。やけにその場面が印象に残る。


こんな風に何気ない場面を心に留められる時間を豊かに思う。

身体が、時間を「消費モード」から「蓄積モード」に変えているかのようだ。


九時近くになり、受付近くのブースに戻ると、さっきのおじいちゃんと男の子がブースに立っているのが目に付いた。なんだ、作家さんだったんだ。

それは小さな発見だけど、何か得をしたような気分にもなった。


8時50分の段階で、人がちらほら伺えた。

そして9時。お客さんは結構入っているように思えた。

「鷹匠で器を買わせて貰ったのだけど」

と言って、お客さんが朝いちで作家さんのところに訪れる場面も見る。

鷹匠といえば、ARTS&CRAFT静岡のWEB企画「むすぶ」

この「むすぶ」がいかに機能しているかも内心楽しみだった。


10時、人がどっと押し寄せている。

賑わう境内。天候にも恵まれた好調な出だしではないか。


そして11時。「ハル 星まとう コヤ」のオープン。

オープンと同時に人で溢れるハルコヤ。

「あ、もう見てる、わわわ!!」という若い女性客のグループが、走るようにハルコヤに向って行くのを見る。同時に、受付にいたスタッフが嬉しそうに笑うのが見えた。



ハルコヤは、ARTS&CRAFT静岡自作の小屋内で行われる、13組の作家さんによるアクセサリーの展示販売スペース。そしてその壁面には清水さんの絵が描かれている。深い青を全面に起用したその壁画には、作家さんそれぞれの作品が星座を模る星々のようにピン止めされている。


ハルコヤの入口をくぐるお客さんの表情を、僕は外から眺めていた。

みな、入口をくぐる瞬間に、何かチャンネルが切り替わるみたいに、上気した笑顔を浮かべたり、恐る恐るといった伺うような目をしたりと、その表情が変化として表れていた。


ハルコヤという四角い箱には、境内とは違う、別の宇宙が凝縮した形で広がっている。

正面鳥居前にこのハルコヤがある意味、それは、このハルコヤをきっかけに、境内でブースを出す作家さんとお客さんとをつなげるという役目や、境内の中ではどんな会場が広がり、作家さんたちがどんな作品を並べているのか、という期待やイメージを発起させる部分も大きい。そういった意味で、会場入り口にあるハルコヤは、成功だったと思う。


清水さんの絵を数年観て来た僕には、今回のハルコヤの絵は、いい意味で少し異質に映った。ある意味、イラストレーション的な伝導率がそこにあったからだ。しかし、そこはやはり清水さん。水瓶座をイメージした少女の横顔には、今までの清水さんの作品を確かに超える、神秘性・神話の匂いが漂っていた。そんな風に毎回、彼女は新たに表現の幅を切り開いていく。


そして彼女はその時、ハルコヤの外側、正面の壁にライブペインティングを始めていた。

ここに来てまだ描き続ける。そんな彼女に僕は感動する。

そして同時に、このハルコヤをここまでのものに仕上げていった企画スタッフのことを想う。



ハルコヤを後にした僕は、次に、エリア5に今回集中的に集められたブースを観て回った。

ここは、販売と同時に、作家さんとお客さんがワークショップを行うエリアだ。

時間予約制のワークショップもあるが、そのほとんどが、すぐに来て手軽に始められる。そこにこのエリアの魅力がある。



特に、子供たちでごった返すArte de Feltroさんの、羊毛を染色してオリジナルのリンゴをつくる「林檎屋」のワークショップには、親子連れが目立ち、子供たちは水を得た魚のように、ここぞとばかりに、ワークショップに熱中していた。彼らにはそれは遊びなのだ。


今回、親子連れのお客さんが増えたように思ったが、その親と子を同時に楽しませるこのワークショップエリアは、いい意味でアクション性の高い、活気あるエリアだった。



そんな中、木工と漆の器を手掛ける作家、ふたば工房さんにお話しを伺った。



ARTS&CRAFT静岡に出たきっかけ、そして出続けて頂けてる理由を教えてください。


「三回目からずっと出ています。友達に薦められて、応募してみたんです。回を重ねるごとに、会場の雰囲気も段々良くなって来ている。つくっている人に雰囲気があるし、お客さんにも雰囲気がある。僕にとっての発表する場、売る場。仕事場には誰も来ないし、来るのはメールとか、電話くらいなので。普段は人と話すことは少ない。息抜きじゃないけど、人に会うために来てるところもある。手売りをするようになって、自分自身、どんどん変わって来たんじゃないかな」


どのあたりに変化はありましたか?


「まず、見せ方。他の作家さんを真似して。テントは白い方がいいということに行き当たる。色々な人と話しながら見ながら、ブースの形は変化していった」


スタッフをどう感じていますか?


「驚くほど良い!動きが良いのと、良くしゃべってくれるのと。お金を貰って有償でやっているところで、スタッフさんの意識も変わるだろうし。でも、有償はたまたまおまけ。意識のある人が集まっている。業者やボランティアが入らないことによって、きゅっとしてる。目指してるところが、スタッフ間で同じになるのかな?」


ワークショップについて聞かせてください。


「参加費が、もう少し安い方が良かったかな。あと、ワークショップを一生懸命やろうと思えば、販売が疎かになってしまうし、自分の中でバランスが取れたらいいのですけど。でも、ワークショップの道具を持って来ることによって、他の出展者さんの刺激にもなればいいなとは思いますけどね。もしかしたらこれを見て、またどこかとつながる可能性もあると思うので」


ARTS&CRAFTに出展されていて、感じていることは?


「誰かを雇ってつくっている人も大丈夫なクラフト市なんですか? 僕個人は、つくることに関することは、すべて自分でやりたい。お金を儲けるためだったら、外注した方がいい。お金だけのことを考えて生活している訳ではないので。基本は自分がしたいことをしているので。それをずっと継続していこうかなと」


自分のしたいことをする、それを人生の中心に置き始めたのはいつ頃からですか?


「物をつくって生活したいということは、小学生くらいから思っていたことで。部活が忙しくなって、一時はその思いもなくなりましたけど、美大にも行って、漆もやって、頑張ってみたけど、世の中そんなに上手くいかないので。仏壇屋さんに就職したりして。で、後にタイミングが来て、轆轤(ろくろ)で食べて行こうと思った。でも。漆だけでは食べて行けない。石川の山中で修行していたのだけど、そこを出ると、仕事がないのね。問屋さんの知り合いや、親方の紹介で仕事をしていたのだけど、リーマンショックでパタリと仕事が来なくなった。その流れで、クラフトフェアに出るように」


ワークショップの反省点や改善点があれば?


「準備不足と宣伝不足です。もっとしやすい作業工程、材料の見せ方、道具もこの道具で良かったのか?など」


ふたば工房さんのワークショップは、『足踏みロクロを使った、木でリングをつくる』というものだ。



足踏み轆轤に荒く模られたリングをはめ、轆轤を左足でひたすら足踏みしながら、そのリングをバイトで削る。後にヤスリをかけ、ガラス塗料を塗って出来上がり。全行程は、10分から15分。


僕もやらせて頂いたが、足踏み轆轤のコツ、足踏みの強弱とリズムをつかむのに少し時間が掛かった。(これは僕が不器用だから)でも轆轤を回しながら、バイトでリングを削っていくその作業は、やはり初体験ということもあり楽しかった。そんなに難しい作業ではないのも良かったのかもしれない。ひたすら足踏みし、削り、その成形に集中出来る。


最後にふたば工房さんは、つくることを仕事にすることの大変さについて語ってくれた。


「5分止まっていると死んでしまう。ここはナウシカの腐海なんです(アニメ映画「風の谷のナウシカ」の舞台・腐海は、汚染された大気により、マスクをつけないと5分もせずに肺がやられ死に至る)動き続けなければいけない。でも、同時に、その次に出来ることは、待つこと。ひたすら仕事が来るのをつくりながら待つんです」


その言葉を聞いたとき、僕は砂漠を想った。

以前雑誌である歌手がこんなことを言っていたのを思い出す。


「砂漠に旅するのは、待つことが出来るからだ」と。


作り手は心の中に、広く渇いた砂漠を持つ。その熱や、大気の変化、孤独に耐えてこその継続なのだろうと、そんなことをふたば工房さんの言葉から考えさせられた。

さて僕は、砂漠で何を待っているのだろう?



次にお話しを伺ったのは、主に、花(植物)を模ったアクセサリーを展開するchiiiiiiicoさん夫妻だ。



雑司ヶ谷には出ているようですが、今回ARTS&CRAFT静岡に出ようと思ったきっかけは?


千賀子さん(以下・千)「主催されてる名倉さんと話しをして、彼が想いの強い方なんで、このイベントに出した。彼の企画「jewelry & chocolate」にも出させて頂いて、静岡の雰囲気も見れたので、素敵やろうなぁーって」


出展してみてどうですか?


「楽しいですね。気持ちいいですもんね、場所が。人も穏やかだし」


雑司ヶ谷との違いは?


「人がゆっくり観てくれるかな。空間も広いので歩くスピードもゆっくり。雑司ヶ谷はキュッとしているので、人に当たったり、見辛かったりするので、こっちは贅沢やなと思います」


靖之さん(以下・靖)「行き交う人の多さに刺激を受ける。みんな素直なのか、作品に対してポジティブなコメントをすぐに出してくれるから嬉しいです」


chiiiiiiicoさんは、ホームページのデザイン、ネットショップなど、つくることの周りにあるものも充実していますし、手創り市などの野外クラフトフェアに出なくても充分売れるであろうと想像しているのですが、なぜ手創り市に出られるのですか?


千・「単純にいうと好きやから(笑)」


おお!


千・「詳しく話すと長いんですけど」


大丈夫です。語ってください。


千・「私はもともと家電メーカーで、プロダクトデザインをしていたんです。が、買い手とダイレクトにつながってない、その人が使ってるところが見えない。会議で上司などを相手にプレゼンしていて、何のために、誰のためにつくってるんだろう?って。それで辞めて、シフトして、こういう会場に出る様になって。買い手が見えて、その人のリアクションが見れて、話せて、手渡し出来て、簡単にいうとやりがいですよね。なので、実際デザインしながら、そういう人たちの顔を思い浮かべることが出来るってことは幸せなことだと思っているので、それが好きにつながっている感じですかね」


それがつくることの中心?


「今だったら、その人、一人のためにつくれるので。今もオーダーなど受けて、その人のことだけ考えてっていう。すごい贅沢ですけど(笑)時間を掛けてつくれる。数はこなせないんですけど、充実感・満足感は得られるので」


使うことの人を考えながらつくると言っていましたが、具体的にどういうことを想像されますか?


千・「単純に言ったら…くさいんですけど…」


この時点で千賀子さんは一人爆笑し始め、


「笑顔です!(笑)」


と言い切る。


いいですね〜!


千・「やっぱり作品を見て貰った時に、かわいいとか、素敵って言って貰った時の笑顔を思い浮かべて、鏡であてて貰った時の、明るくなった顔とか(笑)そういうのを思い浮かべると、大変な作業でも頑張れるかな」


ありがとうございます。では最後に、ARTS&CRAFT静岡に改善して貰いたい点などあれば?


靖・「朝の搬入時に思ったんですけど、道路標識みたいにわかりやすい誘導の矢印が欲しいかなと。例えば言葉で「鳥居の方」って言われてもわらかない。確かに看板には書いてあったんですけど、鳥居はこっちっていうわかりやすい矢印か、グラフィックが欲しいですね」


受け手が見えること、直接の対話、その間で交換し合えるお金には変換できないもの。


心の交換、お客さんの笑顔、作家さんのストーリー。それら精神的な情報は思い出・記憶とともに物に沁みいる。その作品を日常で使うことによって、意識的にも無意識的にも、生活は新しい色を帯びるはず。それが人を生活から豊かにする。その豊かさが人を変えていくという想いが、作家さんや主催者、スタッフやお客さんの中に確実にある気がする。



次にお話しを伺ったのは、プラ板や紙を彩り、アクセサリーや雑貨などをつくる作家、

marumi03さんだ。



ARTS&CRAFT静岡は初めてですね。応募を決めたきっかけは?


「友達の作家さんに勧められて、ですね」


ARTS&CRAFT静岡に実際出てみての感想などあれば。


「年齢層が幅広いこともとても面白かったです。小さいお子さんから、お年の召された方まで……。年齢は色々だけれど、marumi03の作品を見て、年齢は関係なく、女の子として、無意識に女の子の心になって心ときめかせて、見てくれているのがとても嬉しかったです。私自身は女の子らしいわけではないけど、女として生まれた心の琴線に触れるような、考える暇もなく心がときめくようなものをこれからもつくっていきたいと思いました。持っているだけで、心のお守りになるような」


僕は女の子じゃないけど、すごい速さでときめきました(笑)そんなお客さんたちとの対話で気に掛けていることなどあれば。


「とにかく楽しんで貰いたいですね」


ありがとうございます。marumi03さんの作品には本や詩などもありますが。


「むしろブローチがあと。これらブローチには全部言葉がついてるんです。ホントは言葉を通じて「概念」を売りたい。でも言葉だけだと……。それをブローチなどの形にしたらお客さんは使いやすいし、伝わりやすいかなと思って、物にした感じです」


この作品(ブローチ)は「ひがみ」をコンセプトにつくられていますね?「ひがみ」というネガティブな感情を作品を通じてポジティブに肯定してますね。


「自分のひがみがすごいんです(笑)でも、美しいものは認めたい、と思い」


ARTS&CRAFT静岡に出てみて、何か気になった点、改善点などあれば?


「荷物を持って来るのが大変なので、机などの貸し出しがあれば……」


つくることの動機と喜びはどこにありますか?


「遡ったらこの世に産まれたことです!小さな頃から絵も描くし、物をつくるし、つくることが当たり前で来てるので、自分がやらないといけないというか」


やらないといけないと思うのは何故なんでしょうね?使命感ですか?


「使命感です。何故なんでしょうね。小さい頃からそれは感じています」


使命感のままに創作をつづけるmarumi03さん。


話は飛ぶが、多くの人が考え、また人に尋ねられる問いだけど、僕も、生きることの意味を何度か聞かれたことがある。

僕は、ざっくりいうと「生きること。それは『影響』」だと思っている。

人が、いのちが生きる限り、ものが、何かがそこに存在する限り、そこには必ず外界への影響が生まれる。関係が生まれる。多かれ少なかれ。そういった関係性でつながっているのがこの世界ならば、自分がいかに生きるかを考えられずにはいられないのではないか?



次にお話しを伺ったのは、ご婦人方二組に、二歳のお子さん一人、というお客さんだ。


ARTS&CRAFT静岡を知ったきっかけを教えてください。


「たまたまここを通りかかったんです。会社がすぐそこで。看板が出てたので昼休みに来ました。土日出勤なのでラッキーでしたね」


ARTS&CRAFT静岡の感想を。


「全国から色々な作家さんが来てくれるところがいいです。自分では行けないですからね」


何か改善して欲しい点などあれば?


「食べた物のゴミをどこに捨てていいかわからない。お店に返していいのなら、それをわかりやすく告知する何かが欲しい。渡していいのかな?いけないのかな?と迷ってしまう。『終わったら持って来てくださいね』と一言、お店の人に言って欲しい」


ありがとうございました。


上記のゴミの意見は、以前もお客さんから挙がっていたはず。スタッフさん、わかりやすい告知の仕方を、よろしくお願いします。そしてフードブースの作家さん、ご協力をお願いします。



場所は変わって、正面鳥居。ハルコヤの正面壁面では、清水さんが引き続きライブペインティングを行っている。そして清水さんの足元には、小さな男の子がぴったりと張り付き、清水さんと何か絵について話しているようだった。しばらくそれを眺めていたが、男の子は一向に絵の前、清水さんの隣にいて、一緒に絵を描いているかのよう。微笑ましい景色だ。


次にお話しを伺ったのは、東京から来てくださったという三人(男性2名・女性1名)の若いお客さんだ。三人は、手創り市初入場。雑司ヶ谷にも足を運んだことはないという。


「俺の親父も出せるかな?と来る前は思ってました。親父はひょうたんを切り抜いて作品をつくってます。でもおっさんの趣味ってことがわかりました。出せそうにありません(笑)」


「良い作品が多く、ものづくりの気合というか、そういうものを感じました」


会場を歩いてみて、気付いた改善点があれば?


「お店の名前がわかり辛い。名前を知りたかったら、能動的にショップカードなどを取りに行かなくてはならないし。器のお店が多く、結構似ていたりもするので」


名前を憶えやすい、「何か」があれば、と。


「そうですね。パンフレットは無いのですか?」


ありませんね。


「会場図だけでも持ち歩ければと、思います」


「あと、食べ物のお店がもっとあってもいいかな? という、他のお客さんの声も聞きました」


「手創り市なんで、コスメとか、多ジャンルのものがあっていいのかなって。衣類系ももっとあっていい。もちろん、満足はしてるのですけど、もっと楽しめるかなって」


今回は清水さんの絵を観るために来たと言っていましたが。


「小屋の中、良かった。絵も、すごく大きく、色のバランスや構図も良かったので見応えがありました」


「小屋、いいですよね。作品もある程度セレクトさえれてると思うので、ここで「あ!」ってなったら境内のブースに行けるっていうのは、すごくいいなって」


作家さんとお客さんをつなぐ役割ですね。


「それが上手いな、と思いました」


ありがとうございました。



楽しい月夜の晩を一夜明け、開催二日目。(楽しい月夜の晩についてはまたの機会に)

曇りのち雨が心配されていたのもなんのその、今回も天気は晴れのち曇りで持越しました。


(つづく…)


うえおかゆうじ


*参考文献* 

NHK「NHKテレビテキスト 100分de名著 フロム 愛するということ・鈴木晶」


*一部写真提供*

A&C静岡スタッフ 鈴木一生 ★☆★



ここから先は前編・第2部へ持ち越しです。

更新は明日、5月8日。

是非ともご覧下さい。



ARTS&CRAFT静岡手創り市




2013年秋季A&C静岡ルポ:後編(10月13日)

*2013年秋季A&C静岡ルポ:前編は「こちら」clicks!!よりどうぞ*



2013年秋季ARTS&CRAFT静岡ルポ:後編(10月13日)


開催2日目の朝6時半、OHNO CAMERA WORKSの大野さんが会場へやって来た。

なんでも大野さんのご厚意で、スタッフの集合写真を撮影してくれるというのだ。


前回開催のシミュレーションの時だった。スタッフの鈴木くんが設計・制作した小屋が組み上がった時も、大野さんは「小屋の中で写真を撮りましょう」と言ってくださった。

が、しかしARTS&CRAFT静岡のスタッフでない僕は、大野さんに撮られるみんなを小屋の外から一人眺めているだけだった。

僕は大野さんの写真が好きだ。人の芯をとらえ、なおかつ、あたたかい微笑みを引き出すあのポートレイトたちが特に。

普段、写真を撮られることはあまり好きではないけれど、大野さんになら撮られたい。と、胸の奥に秘めた想いがあった。

そして、今回のスタッフ撮影。わらわらとカメラの前に集まり出すスタッフとは反比例して、その場を去ろうとした僕に、名倉くんからお声が掛かったのだった。

「うえおかさんもだよ」と。

これはめちゃめちゃ嬉しかった。


そして僕は、ARTS&CRAFT静岡のスタッフに紛れ、最前列の一番すみで中腰になり、いかにもカメラ慣れしていない硬い笑顔を浮かべたのだった。



そんな高揚感を持って始まった2日目の朝。ブースに入り始めた作家さんたちに挨拶をしながら、境内を回る。


そして前回ルポさせて頂いた、琉球ガラスの作家さん琥珀さんと自然と立ち話になる。琥珀さんは、今回も遠く福岡から出展してくださっている。そんな琥珀さんは距離についてこう語った。


「遠くから来るからには、売れる売れないじゃなしに、別の何か理由がある。その理由は、ARTS&CRAFT静岡のスタッフ。彼ら彼女らの一生懸命さや親切さが嬉しくて」


そう語る琥珀さんの言葉が、自分のことのように嬉しかった。少し図々しいけれど。


9時になり、二日目のARTS&CRAFT静岡が始まった。



最初にお話しを伺ったのは陶器の作家さん、細山かおりさん。


20131226-1.jpg


つくることだけで生活をしていますか? の僕の質問に、結婚していること、ご主人が有機野菜の料理を出すお店を営んでいること。そしてその野菜に寄り添う器をつくろうといつも思っています、と語ってくれた。


器をつくるときの完成はどこに見ますか?

料理が盛られた時を完成にするとか、色々とありますが?


「やはり料理を盛った時のイメージ。ご飯が美味しく見える器をつくりたいと思ってます」


それが中心となっているコンセプトですか?


「そうです。例えば黄色い器だと根菜類が似合う器にしたいとか、緑の器だと夏野菜だとか、緑黄色野菜とか、夏だとトマトのお料理だとかをイメージしながらつくるようにしています」


始めにお野菜の料理のイメージがあって、それを器に落とし込む。


「はい。有機のお野菜も契約の農家から新鮮な状態で入って来るので、これをこんな料理で盛りたいなってイメージが沸いてくる。で、出来るだけ季節に合わせた器とお料理のイメージでって考えます」


細山さん自身が何故季節や料理を考えて器をつくられるのだと思いますか?

それは器をつくり始めてからですか?


「いえ、お店を始めてからですね。有機のお野菜をつくっている農家さんのところに行って、お手伝いすることもありますし。やっぱり食って生活とは切っても切り離せないっていうのがありますし。私は何故陶器かというと。陶器は材料が土。そしてお野菜」


つながりますね。


「食と自分のやっている素材と器がつながっているなって思った時に、やっぱり食に寄り添った器をつくりたいなっていう発想ですかね。それまでは、オブジェとかも好きなので、形から入る器づくりだったかもしれませんね」


物をつくる喜びや動機は?


「一番嬉しいなって思うのは、器を持ち帰ってくださって、こんな料理を盛ったよと写真などを見せてくれたり、というのは嬉しい」


細山さんの創作は、それ自体コミュニケーションをすごく意識していますよね?


「意識してます。あまり伝えることが上手でないので、器から何かがお客様に伝わってそれが返ってくるのが嬉しいです」



次にお話しを伺ったのは、少し変わった建築関係の仕事をしているという男性のお客さんだ。

少し変わった、というのは、ただの建築ではなく、アートと建築の中間のような建造物をデザインする仕事をしているとのこと。


「ARTS&CRAFT静岡手創り市は初めて来ました。護国神社は来たことがあったのですけど。好きな部分は木が多いところ、自然と溶け込んだ感じがいいなと思いました」


ブースを見て回って気付いたことがあれば?


「恐らく計画があると思うのですけど、決め過ぎてない感じがいいなと。各々テントを持って来ていたり、なかったり、全く同じでない感じが。色んな木があるとか、色んな場所性がある中で、馴染んでいるなって感じがしました」


そこに多様性や自主性があってってことですよね。場所だけをつくって、様々な人が参加することによって、場所が生きていくというか。手創り市はブースの区画っていう決め事があって、

そこから自由に作家さんが発展させていくというか。


「決め過ぎない。どこまで決め込んでいくか、つくり込んでいくかという線引きが、作家さんの主体性を尊重しているし、完成形が見えてないところを楽しんでいる感じがあるんのしゃないかな? と思いました。と予想するんですけどどうですかね?」


トータルとしての生き物としての市をつくる。そういう部分は多分あると思います。僕は&SCENE手創り市のスタッフをしているのですけど、ブースという区画を各作家さんがつくって、それが全体として市になる、生き物のような有機的な感覚は意識していますね。


気になる作家さんや作品はありましたか?


「京都の木工の作家さんで。そのブースに惹かれた理由は、たまたま通った時に、木と木の間の光が美しかったといのもあります」


それは空間が生み出した絶妙なタイミングですね。

職業柄、空間を意識されると思うのですけど、光と影もやはり意識します?


「はい」


空間をデザインする職業の方だけあって、手創り市という場を空間デザイナーの視点で深く洞察されている感じを受け、刺激的な対話となった。



次にお話しを伺ったのは、自家製酵母パン&コーヒーを営む、breffee storeさん



今回が初めての出展ですが、まずは感想を。


「土日でお客さんの層が違うなって。それが新鮮でした。ゆっくりお客さんともやり取りが出来て、程よく、あまりバタバタすることなく楽しくやらせて頂いてます」


バタバタしなかったのは、お客さんのペースがゆっくりしているからですかね?


「そうですね、お客さんも余裕がある感じがするので。私たちもお店を始めたばっかりで、皆さんご存知ないと思うので、それもあってだと思うんですど。色々知って頂ける機会になったかなって。ホントに色々な方がいらしたので」


今回「まちきれない! おやつセット」の企画にも参加されていますが?


「おやつで出すのは、エスプレッソとはちみつのラスクのセット」


売れ行きはどうでした?


「昨日は、まぁまぁ出たという感じで。お菓子はスコーンも出しているので、最初にそれを買って行かれる方がすごく多くて。2時以降お菓子を買う方があまりいなかったような印象がありました。でも色々と変えていけば、色々な売り方があるのかなと思いました」


そんなbreffeeさんに自身のお店づくりからお客さんとのコミュニケーションについて伺った。


「小さなお店なので、自分たちの色があった方が、やりがいもあるし、自分たちも面白くなるんじゃないかなって」


「自分たちのやりたいようにやるというのはあるのですけど、やり過ぎてもよくない。お客さんと対話して、ヒントを貰いつつやっていくという感じもあります。お客さんは、話してみないとわからないというのもありますし」


次にbreffeeさんにつくることの喜びと動機を伺った。


「自分が楽しいからつくっているだけだけど、お客さんに「美味しかったよ」って言って貰えると、当たり前のことですが、本当にやっていて良かったと思えます」


「自分たちの味が受け入れられたのかなって」


最後にARTS&CTAFT静岡に対する要望を伺った。


「朝、9時スタートじゃないですか? その時間帯ってバタバタしているので、いつ9時になったのか、結構わからない。そこで、チャイムみたいな合図があればと思いました」


「話してみないとわからない」という台詞が耳に残るbreffeeさん。話すということで、可能性の枝葉を広げていこうとするその積極性が印象に残った。



次にお話しを伺ったのは「MY CUP is...」の企画も担当しているスタッフの上門さん。


20131104-7.jpg


初の企画展への参加ですが、どうでした?


「何から考えていいのがわからないとうのもあり、戸惑いは大きかったのですけど、実際開催に当たり作家さんとやり取りをするようになって、やっぱり面白いなと思いました。一歩踏み込んだことが出来て良かったなというのはあります」


「一歩踏み込む」って言うのはキーワードですかね? そこで気付いたことや変われたことは?


「アホな答え言ってもいいですか? … 作家さんの名前が覚えられた」


ああーそれは忙しかったってことですかね?


「いや。良いなって思っても、なかなか覚える機会ってないじゃないですか? 私、人見知りもしちゃうからブース回っててもあまり話せない。でも、それを企画を通して絶対に連絡を取らなければいけないとか、物を受け取る時には会って挨拶もしなけばいけないって中で、覚えますよね? 小屋の中で、「このカップはどの作家さんのですか?」と言われて「はい」って答えられる。それが自分の中では良かったなと思って。じゃ、次に多分、その作家さんに会う時や、応募してくれた時に、こういう方だったなって思い出せるじゃないですか? 」


それは、ちっちゃなきっかけであり、大きな次につながる一歩ですよね?


「はい」


作家さんとの対話もありましたか?


「まだそこまでは……。性格が人見知りもあって、壁は厚いなと思っています」


ゆっくり馴染んでいけばいいですね。


「小屋の中で、カップを見ていて、それぞれに違いがあるじゃないですか? その違いについて聞いてみたいと思った時に、話し掛ければいいんだって思ったんですけど、まだ行けないですね。でも、そういう気付きがあって良かったですね」


「MY CUP is...」は企画としてどうですか?


「良かったと思います。最初私の中で不安だったのは、カップってガラスも木もありますけど、主に陶器の方で、そうやって絞っちゃうことでお客さんが限られてくることがあるんじゃないかって思って。意外に、マグカップってみんな使う物なので、みんな窓から手を伸ばして、カップを触ってくれて、小屋の中にも老若男女入ってくれていて。買わなかったとしても、眼を付けたカップの作家さんのところへ行ってくれているんですよ。それが小屋の役割。作家さんとお客さんをつなぐという」


それが、この会場の入り口にあるのもいいですよね?


「ここで、カップを見て、作家さんのブースの場所を紹介してっていう」


反省点は?


「もうちょっと準備をしっかりすれば良かったかな? と。事前の告知だったり、ツイッターとの企画の連動だったり。もっと出来たのではないかなって」


質問は変わりますが、上門さんから見て、周りのスタッフをどんな風に感じていますか?


「今までは、みんなの素性を知らなかったのですけど、デザインやっているスタッフがいたり、それぞれ色々とやっているので、みんながそれぞれ出来ることを出し合えば、色々なことが出来るんじゃないかな? って。ただローテーションの中でやるのであれば、それは単なる作業になってしまうので、せっかく色んな人がいるのであればもっと企画展も面白くなるし」


スタッフの出来ることを持ち寄って出来る、今後の企画展。実に次のステップが楽しみだ。



次にお話しを伺ったのは、テキスタイル作品を出展しているmegRu(メグル)さん。


20131226-2.jpg


古着のリメイク・再生、つまりめぐりめぐっていく作品をコンセプトにやっていらっしゃいますが、そうなった経緯を教えてください。


「工芸、織をやっていて、ひたすらつくり続ける作業。それはそれですごく意味のあることのように思えたのだけど、結婚して出産して、今ある時間で人と関わる事って考えた時に、キーワードとしても身近にある素材から何かつくれないか?みたいなことで始めしっくり来たというか」


結婚と出産という変化も大きかったのですかね?


「大きかったですね。それまでは、自分がつくる、手を動かせればいいというところがあったのですけど。自分に与えられた時間がかなり少なかったというのと、個人として人と関わる機会が減ったというのもあって、うまく人と関わる、プラス、子供の気持ち、お母さんの気持ちとかもわかって来たので、私の立場で人と関われる方法を考えていった結果かもしれない」


それがつくることの喜びや動機につながりますか?


「そうなんです。ただ私はつくれればよかった。手を動かしていたかったので、もともと美大で織を勉強して、つくりつづける動機づけとして、ひたすらつくる伝統工芸に入ったのだけど。今度そこから飛び出した時に、なすすべもなく。で、自分でつくってる楽しみでも良かったのだけど、ワークショップをやって人と関わりましたとか、人に届けました、とだんだんこう人と直接コミュニケーションを取ってやっていくというのが、私のつくる動機付けにはなっていますね」


雑司ヶ谷の手創り市に出てらっしゃいますよね? 今回、ARTS&CRAFT静岡に応募しようと思ったきっかけは?


「それは、プロ、もしくはプロを目指す人っていうコンセプトでここはやってるじゃないですか? その覚悟がいいなって思って。私もこれだけでご飯が食べていけている訳ではないですけど、好きだけでやっているというよりはって思っている時に、このARTS&CRAFT静岡のキャッチコピーに出会って。最近つくり続けていく上で色々と考えていた時期だったので、いいタイミングでARTS&CRAFT静岡には出れたなと思います」


例えば今、つくることについて考えていることは? つくり続ける上で。


「外マーケットって価格設定が難しい。様々な条件で、こちらの気持ちもグラグラと揺れ動いていたんですけど、確実に手数は増やしていたいし、手間としてお金を頂かなければいけないというのがあるので、今後はちょっと高いって言われても、手数をどんどん上げて、その分、手間が掛かっていますって言えるようになっていきたいと思っています。そうしないとつくることも続かないのじゃないかなと。自分も変化して進化していきたいから。現状維持に見えても、どんどん細かくとか、どんどん面白く変えていきたい。だから同じ値段でってよりは手間の分、価格設定を上げていかなければならない。今まではそれが辛いなと思っていたのですね」


なるほど。


「この値段でやっていますって、はっきり言えるようにしっかり作っていきたいなと思います」


では最後に、ARTS&CRAFT静岡の感想を。


「お客さんの関心がすごく高くて、コミュニケーションという意味ではより深く話が出来る」


それは雑司ヶ谷との違いですか?


「雑司ヶ谷は流れが早い。ARTS&CRAFT静岡は、足を止めてゆっくりコミュニケーションを取るとか、展示の仕方を工夫するとか、間合いがすごく取りやすい。個人個人をゆっくり見ていかれる方が多い。見せ方も含めてそれぞれの作家さんの個性がわかりやすいので、すごくいいと思いました」


ありがとうございます。


ただ単に値段を上げるのではなく、掛かった手間とその物のつくりを見て、自信を持って値段を上げる。そんな自分になれるよう「覚悟」していく。そんな、meguruさんの姿勢はすごく良いと思えた。



次にお話しを伺ったのは真鍮を中心とした作家、GREGORIO GLEAM(グレゴリオグリーム)さん


20131226-8.jpg


その屋号の意味を教えてください。


「今は真鍮をやっているのですけど、前は柿渋染め、蜜蝋の物もつくってたんですけど、それが太陽にまつわるものってイメージが自分の中にあって。で、太陽にちなんだ名前を付けたいなと思って、太陽暦(グレゴリオ暦)からグレゴリオ、韻を踏みたかったのと、ゴリゴリした名前が好きなので、GREGORIO GLEAM、太陽の煌めき。お客様一人一人にとって、煌めくような物づくりが出来たらいいなという想いを込めて」


ものをつくる動機とか喜びはそこにある?


「お客様のためにって想いはいつもありますね。お客様が喜んでくださることが一番なので」


すごく強いですね、その想いが。


「身にまとって頂ける、手に取って頂けるってことがすごくありがたいっていうか。それしかないです」


身にまとうってことはその人の生活を変えるってことじゃないですか? その方の煌めきになるというか。


「そうあったら嬉しいです」


作品の太陽に対する思い入れはどういうところから来ていたんですかね?


「私は住んでいるところは山の中の田舎で、景色にしろ空を見るにしろ、遮るものが何もないので、太陽があるのが当たり前で」


当たり前だからこそ、そうなっていった?


「そうかも知れませんし。何故そうなったのか? 理由をちゃんと考えたことがないですね」


自然を感じさせるデザインが多いなと僕は感じるのですが、その辺は意識されていますか?


「山に行ったり、森に行ったり、大きな公園でどんぐりを取ったりっていうことをやってイメージに貰ってつくることが多いですね」


違う質問にいきますね。

つくることと生活のバランスを取るためにご自身が気を付けていることやルールはありますか?


「規則正しい生活は送ってます。あと、つくれない時は一切つくらないようにしています。納期がある時はつくりますが、納期がない時は、つくりたくなる迄つくらないようにしています」




次にお話しを伺ったのは、家具や道具をつくる木工の作家、iwakagu(イワカグ)さん


20131226-5.jpg


一回目から出て頂いていて、その中で感じている今回までのARTS&CRAFT静岡の変化した部分などあればお聞かせください。


「変わっていないと思います。その中で出展者や周りの人が集まって、良く、というか人が集まるものになっていっていると思うので。僕は一回目から主催者の方やスタッフさんをすごいなと思っていて、そこに対して人が集まってつくっているって感じなので、何か変わったかと言うと、周りの人が寄って来ている、賛同しているというイメージです」


要望はありますか?


「一人で出展しているものですから、お昼とかフードブースに食べに行けないので。メニューが仮にあって、届けるかどうかはわからないんですけど、そういうのがあれば、自分も市に参加しているなぁーっていうか。いつも店番で終わっていて、周りの方に食事も美味しいって聞くので。まぁ、図々しい話ですけど。売るだけじゃなくて僕もお金使って参加出来るんで」


自分のつくることに対するコンセプトや情熱を語ってください。


「僕はつくることに対して意志はあまりないんですど、相手に対して、相手が欲しい物を形にするのが仕事だと思う。こういうのがあったらいいなっていうのを形にするのが僕の仕事なので、それを確実に今後もこなしていきたいです」


その為に集中力を使う?


「コミュニケーションですね。形にするまでのこうして欲しいとか……」


対話ですか?


「対話じゃなくても、雰囲気、着てる物、話し方から察してそれがつくれればと思います」



iwakaguさんのコミュニケーションを対話という言葉だけで捉えない感覚、相手の雰囲気や着ている物、話し方という言葉以外の情報から相手を察し、その方の欲しい物に近付けていくという手法はその時新鮮に聞こえた。けれど、今に思うのは、それはコミュニケーションを取ることに置いて当たり前のことなのだろうと、当たり前に思う(その当たり前が見えにくくなっている現状が場面として多々あるとも思う)。それをiwakaguさんは、シンプルに体現しているのだ。



次にお話しを伺ったのは、清水美紅さんのライブペインティングを長時間見ているとおっしゃる若い男女のお客さん。


「地元の者です。毎年春秋、ARTS&CRAFT静岡のフライヤーが出た瞬間に手に取って、来ています。開催する日がいつも晴れる。木漏れ日が気持ちいい」


「普通のお店だとかしこまっちゃうのだけど、ARTS&CRAFT静岡ではフランクに作家さんと話せる。それはこの会場が自然の中だからかなぁーと思います」


ライブペインティングをずっと見ていたようですが、清水さんとは面識があるのですか?


「前にギャラリーとりこさんで「ゆらぎ」の展示をやって、ここでもインスタレーションをやっていて。展示を見てから知り合いになって毎年来ているので、そこからの知り合いです」


絵に見入っている時、どんなことが心に浮かびましたか?


「ARTS&CRAFT静岡二日間で、昼間の内にやるじゃないですか? 太陽が出ている限られている時間で、絵が飾られている訳ですよね。太陽の光が当たって、木の影や葉っぱの影が絵に映っている時間というのがものすごい贅沢に思えて、その中で周りにフードコートとか好きな時に好きな食べ物を食べながら絵を鑑賞出来るというのがとても贅沢で、いい時間でした。風もとても気持ち良かったです」


「同じです。陽の光と影と表情も変わるし、色使いもすんごい好き。とにかく素敵としか言ってない気がする。絵だけじゃなくて、美紅ちゃんの描いている表情もきれいで」


そういうものも含めてライブペインティング?


「描いてる時の彼女の姿がきれいだなと。描いている時に、布に当たった光が彼女の眼に当たって、鋭い眼光の中に絵が映っている姿と描いている姿が美しく見えて良かったです」



「完成です」と清水美紅さんが言った。

彼女が二日間描き続けた絵がとうとう完成した。周りにいた人たちからは自然と拍手が湧き上がった。僕は久しぶりにものすごく興奮していた。そして完成後の清水さんにお話しを伺った。


20131226-6.jpg


今回の、この場所で行ったライブペインティングの良さをどこに感じましたか?


「ホントにびっくりしたことがあって。これからもこのやり方でやりたいと思える発見があって。それは風についてです。風によって布が揺れてて、自由が効かない、固定がされない、思ったところに筆がいかないっていう状況は、私が大好きな「偶然」」というものに結び付くと思いました。私は日常生活で偶然が大好きなのね。絵においても偶然っていうのが昔から好きで、このやり方だと偶然がたくさん生まれる」


生まれ続ける。


「そう、生まれ続ける。というのが、自然のものによってっていうのが、すごいびっくりしたし、感動したしこれからもこれをやりたいと思いました」


風というものもあるけど、光はどうですか?


「光は強いと、多分風と同じように自分が意図しない色になっている。それを私は許している。風と同じというか」


その連鎖を認めていって、その先にあるものを紡いでいくってことですよね?


「そうですね」


清水さんの中心に「偶然」というキーワードがありますが、それを好きな理由を教えて下さい。


「うーん。考えてみようか……。私は偶然により気付いていたい。興奮したいし、特別なものに感じていたいんだよね。自分が色んなことをコントロールしてるって思っちゃうじゃないですか? こうやってるからこうって。それもあるんだけど、ホントはもっとゆだねていい。ゆだねるともっと楽しいことが起きたりするのかな」


今のゆだねるという言葉。それはライブペインティングのテーマ、それを清水さんは前日準備の日に「外」って言っていたじゃない? そことつながるというか?


「そうだね。自分の中だけじゃないってことかな?」


自然との中で生まれる偶然。


「自分も自然の一部、なんだよね。自分が分けへだてていたものが、フッと混ざるのかな? 相手にゆだねることによって混ざる。それがピタッと来る瞬間が偶然ってことなのかな。私の中で。これは、変わるかもしれませんが。それが今思ったこと」


清水さんの絵を毎回見る度、成長し続けている感覚と成長に甘んじない感覚を受けるのだけど。


「満足していないからかな? 自分の作品に。すっごい大事だけど、大好きでそれに酔ってる訳ではないし。まだやれる、いつももっとって思ってるからかな? 今特に変わっている時かもしれない」


今? そう感じるのは?


「色の話しになっちゃうんだよね。色については私の中で色々な考え方があって。私はそんなに色を大事にしてない。単純に言うと、青を長い間使ってる時期があって、それを私は、もっと色々な色が使いたいと思っていました。で、今、それが出来つつある。その状況が、変化」


今回すごく驚いたの色数の多さだった。色が流れを生んでるポイント、テンションを生んでいるポイントがある気がするんだよね。


「そうですね」


それが色の影響もあるだろうし、ここで描いたことによる影響もあるだろうし。


「そうだといいな。物をつくってる人が色にこだわるなんて当たり前なんですよ」


うん。


「で、今私が色を使えるようになって、絵が成長しているんであれば、ホントは違う。色以外のところも成長が出来てればいいなって思ってるので、それがより、実現出来るように頑張ります。ふふふふ。色以外のものでも滲み出るもの、より私自身。得も言われぬパワーを感じて欲しいというか、絵に込められるか、それが出来るようになるといいな」


ありがとうございます。他に、何か言い足りないことがあれば。


「私はずっと絵を見ていたから、絵を見てくれた人が、どれだけいたかわかないけど、見てくれたことに感謝してます。ふと、何かの時に、絵を見てくれている人の表情を見れる瞬間があって、みんなすごいきれいな顔してた。あっ! って。それでね、きれいな顔をしているということが、リラックスしているとかポジティブなことだったらいなと思っていて、一瞬、色々辛いことのあるこの人生で、ポジティブな気持ちになれる手伝いが出来て嬉しい。だから私も見て貰えて嬉しかったです」



次にお話しを伺ったのは、ARTS&CRAFT静岡代表の一人、高山さんだ。


「今回は疲れました(笑)「MY CUP is...」という企画もあれば、エリア3と4に車を入れるという二つの新しい試みがあって。「MY CUP is...」では、橋本さん上門さんが中心になってやってくれていて、その二人を抜かしたローテーションになり、結果、各個人の比重が上がったというのがある。それは仕方ないのだけど。その結果大変だったというのもあります」


名倉くんの話しでは、今回高山さんが陰で色々と動いてくれていたようで。


「今回からARTS&CRAFT静岡のWEBの更新が、東京のスタッフ秋田さんから高山の方に移りました。でも、それによって負荷が掛かるということはそんなになかったと思いますよ」


今回から「MY CUP is...」のような企画が始まりました。それはARTS&CRAFT静岡にとって大きなことではないでしょうか?


「今まで、名倉のトップダウンで基本的には動いていたことがあり、その辺で抜けてないところはあるけれど、今回の「MY CUP is...」を開催までこぎ着けて、販売までやるってことは、今までになかったことだし、各自が自主性を持ってやったというのは、ひとつの成果ではなかろうかと思います。これがどうつながって行くかってところだよね?あと、今までこうした方がいいんじゃないか?ああした方がいいんじゃないか?という意識共有がされて、初めて成果が出たのが今回。エリア6の配置とか。やはり、どちらかというと次だよね?今回一定の成果は出しました。では次どうしましょうということ。改良点や反省点もあると思うんだけど、そこを見つけ出してどう次に活かしていけるか? というのが今回の課題なのかもしれないね」


最後に反省点を。


「当日の各自の動きに関して今まであまり議論を重ねて来なかったせいか、そこが各自バラバラだったりしたのが目に付いた。その場その場で問題があるたび、そこにいるスタッフが口述で伝える。その認識が全体に共有されてないということが今回良くわかった。今回そこが問題だってわかったことが収穫と言えば収穫かな?」


ありがとうございました。



最後にお話しを伺ったのは、OHNO CAMERA WORKSの大野さんだ。


20131226-7.jpg

今回大野さんはフードエリア側の池の前に野外スタジオをつくり、そこで「未来のあなたへ」の撮影をしてくださりました。


二日間お疲れ様でした。今朝はスタッフ一同の写真撮影ありがとうございました! 僕は正確にはスタッフではないのですけど、一緒に撮って頂けてすごく嬉しかったです。


「ありがとうございます」


さて、今回の「未来のあなたへ」どうでしたか? 小屋から屋外へと環境が変わりましたが?


「撮影する分には難しい。光がやっぱり変わるので。最初、ここがいいなと思っていたんですけど、光が変わっていくので、その都度場所を変えて。そういう意味では楽しいし、お客様にとっても楽しい写真が撮れたのではないかと思います」


より活動的というか?


「テーマとしては背景がない方がいいのですが、いつ、どこで、何をしたって言う部分では、ある程度写り込みがあった方が、10年後20年後に色んなお話しが出来るので、そういう意味ではいいんじゃないかな? って」


背景が記憶としてつながっていくってことですよね?


「そうですね。やっぱり記憶って曖昧だから、どんなに楽しかったことも悲しかったことも忘れていっちゃうじゃないですか?  からある程度情報があった方が記憶に残るので、そういった意味では良かったと思います」


今、「記憶」という言葉が出ましたけど、大野さんにとって「記憶」とは? 


「僕は写真は記憶を残すために撮っている気がするんですね。今、自分が撮っていて、ハッと思うものは、昔懐かしんだものをパンって思い出す写真。現時点にいる僕は、過去を思って写真が記憶だと思う。だから今撮っているものが未来に行くと、きっと記憶を辿る何かになるのだろうなとは思うので、写真というのは、記憶という何かにとっては大切なツールじゃないかと思いますけどね」


最後に、今回のARTS&CRAFT静岡の感想を。


「やっぱりいいなって。静岡を代表するイベントだと思うし、県外からもたくさん来てらっしゃるし。常々思うのは、静岡の文化って点在していて、それが一同に集まるっていうのがいいと思うんですよね。だからそういう意味で、常に何かを求めて来るというのもあるし、新しい方が入ってくることで、同じお客様が飽きが来ないというのもありますし、新しいお客様も入って来れる。そこがいいと思います」


大野さん、ありがとうございました。


毎回ですが、これで長い長いルポを終わらせて頂きます。ここまで眼を通して頂き本当にありがとうございました。

ARTS&CRAFT静岡の次回開催は、2014年4月12日、13日です。

皆様、よろしくお願いします。

更に変化を遂げ、お互いの長所を持ち寄ったARTS&CRAFT静岡スタッフならではの企画が、個人的には楽しみです。ではでは。


うえおかゆうじ


ご意見ご感想は下記mailまでお気軽にお寄せ下さい。



ARTS&CRAFT静岡スタッフ一同





2013年秋季ARTS&CRAFT静岡ルポ:前編(10月12日)


2013年秋季ARTS&CRAFT静岡ルポ:前編(10月12日)



何故、物をつくるのか? と問われることがある。

僕の場合は「何故書くのか?」と。

僕はこう答える。

書き続けることを選んでいるのは、自分が楽だからだ、と。

書いている時は、人生の座り心地が良い。すっぽりと何かにハマるように、僕は僕の人生にハマることが出来る。

逆に書いていないと人生の座り心地が悪い。

僕は、書けない時期を何年も経て、今こうして書ける生活を送ることが出来るようになった。

時折、書けない時もあり、それは何よりも苦しいけれど、やはり、書くことを選択し続ける限り、僕は人生を楽に感じられる。

「楽」。楽しいという感情にもそれは当てはまる。

書いている時ほどエキサイティングな瞬間ない、と僕は思う。

そういったものを見つけられただけでも、僕は幸せだと思う。


僕はルポを通して、手創り市の作家さんに、

「つくることの動機や喜びを教えてください」

という質問を何度も投げ掛けた。

そして多くの作家さんに共通して返って来る言葉、それは、「つくることが好きだから」「楽しいから」というものも多いが、最も多く返って来た言葉が、「お客さんに喜んで貰えることが嬉しいから」という言葉だ。

自分の作品が、お客さんの日常に入っていき、お客さんの生活の喜びの一部に変わること。

「お客さんが喜んでくれる瞬間のためにつくり続けるのだと思う」、という言葉も伺った。


自分の作品が他者とつながることで得られる喜び。

それは「書くことが楽しい」で止まっている僕より、ひとつ先にある答えのようにも思えた。

僕は、この手創り市でルポライターを始める前に、何人かの友人にこんな言葉を貰った。

ちょうどアトリエ訪問のライターとして、インタビューのテープ起こしや編集後記を書いている頃だった。


「うえおかさんの編集後記は、個人で書いている小説とはちょっと違って、等身大の言葉で書いているよね? それがいいと思う」


その頃から僕は「等身大の言葉」を意識するようになった。

独りよがりだった僕が、他者とのつながりをより求めるために選んだ姿勢、それが「等身大」。


手創り市の作家さんの多くは、自然とそれを体現していると、今回のルポでも思った。


好きなことを生業にするということは、自分が自分らしくいられる場所や時間を持つことと、イコールだと思う。

そして作品の向こうに、「お客さん」という「社会」があり、そのつながりを大切に物をつくり続けること。

そんな、作家さんたちが集まるARTS&CRAFT静岡で、今回も僕はルポを行った。



開催前日の夜中、雨音を聞いた。パラパラと音を立て、窓に当たる雨だった。

翌朝、6時半過ぎに会場入りすると、夜中の雨で地面が湿っていた。僕は思った。今日は砂埃が立たないだろうから水撒きの心配もないだろうと。そんな風に、天候を通じて会場のことを自然に考えるようになっている自分がいた。

手創り市にライターとして関わり始めてもう4年。&SCENEのスタッフとしては丸一年。そんな時間が僕に与えた変化なのだろう。


蒸し暑い朝だったが、地面には落ち葉が目立った。気温は25度を超えているだろう。夏を混同させたような秋だ。


作家さんが搬入している参道に入っていくと、声を大きく上げて他のスタッフとコミュニケーションを取っている橋本さんが目に付く。彼女の声の先には高山さん。彼も大声でそれに返す。橋本さん、高山さんは誰よりも声が出ていると思った。


名倉くんのお父さんに託されたスタッフ全員分のサンドイッチを僕は持っていた。それを見た顔見知りの作家さんが、

「いっぱいありますね! お腹いっぱいになりそう!」

と、大きな声を立てて笑った。手創り市に関わるようになったことで、こんな風に作家さんの知り合いも増えた。


八時過ぎ、だいたいのブースが出来上がり、受付が始まる。受付の横にある、「むすぶ」のフライヤー置き場で、スタッフの川手さんを見つける。川手さんは今回、私用で本開催のスタッフを休むことになり、悔しがっていたが、時間の許す限り会場に顔を出したいという思いらしい。

「お仕事ですか?」

と声を掛けると、

「遊んでいるだけです」

と微笑み、富士山や、温泉のマークなどがスタンプされた重しの石を、フライヤーの上に丁寧に乗せていた。


僕は再び、開催前の参道を歩く。

テントの屋根を外しているブースが今回より目に付く。これは、二日間の晴れを約束したかのような天気予報の効果と、開催前にブログで再び取り上げられた「テントについて」の記事の効果だろうか?と感じた。


池に囲まれたフードブースの集中するエリア、出島(とスタッフに呼ばれていた)にて、今回、画家の清水美紅さんが開催の二日間をかけ、ライブペインティングを行う。前日準備にも参加していた清水さんは、その日こんなことを言っていた。


「絵を描く前は落ち込む。全くゼロからそれを始めるから。

 描き上げることは絶対わかっているけれど」


名倉くん、高山さんが脚立を持ってそこにやって来た。そして名倉くんが強引に一本の木によじ登ると、高さ、3、4メートルあたりにロープをくくりつけた。まるで野生児といったそのたくましさや、同時に木から落ちることを怖がるその様にそこにいた一同が笑い、パチパチと写真を冷かしで撮ったりしていた。

そして、木と木の間を渡したロープに、幅3メートル、高さ2.3ートルの布が付けられ、清水さんの舞台とも呼べるキャンバスが出来上がった。



9:00スタート。お客さんはまばらだ。しかし、無事スタートを迎えられた作家さんたちの表情が、どこかゆるんでいるのを感じる。

そんな中僕は、sometaeさんという手拭い作家さんの作品に見入っていた。

僕の手拭いのイメージは、家紋などの一定のデザインが、手拭いという面の上でループするように配置されているもの、というのがあった。しかし、その時見たsometaeさんの手拭いは違った。

それは一枚の絵だった。昔見た切り絵の絵本のようなスタイルを持った、群像劇だった。

一枚の絵の中に、たくさんの人々が描き込まれている。泣いている人も笑っている人もいる。涙を流しながら珈琲を飲む人。一輪車に乗った少女。子供を抱く母親。ハシゴを支える子供たち。懐中電灯を照らす兄妹……。

僕は、sometaeさんにインタビューの承諾をその場で得、お話しを伺った。


20131104-3.jpg


「デザインを先に考えることもあるんですけど、図案が思い浮かばない時には、直接感覚で図柄を切っていくんです。そんな風に、自分の中にあるものが自然と浮き上がるように、切りながら考えることも多い」


昔からそのやり方をしていたのですか?


「違いますね」


何故、そのやり方にシフトしたのですか?


「かっちりした物より、ゆったりした物が好きだから、ですかね?」


彼女は言う。自然と出るもの、そこから連鎖してつながっていくもの。そういったつくり方も自分に合っていると。自分の性格も神経質ではなく、きっちりとはしていないという。なるほど。そのスタイルから生まれる余白や余裕から、sometaeさんの無意識的な部分が浮き上がった深みのある作品にそれは見える。


そんなsometaeさんは、独立を2、3年後に考えているという。


「独立にかける覚悟がないと。このままやっていても成長しない。もともとガツガツいく方ではないので、ガツガツ染める機会を増やせたらと思います。自分の心の持ちようですかね?」


sometaeさんは自身のコンセプトをこう語る。 


「暮らしに根付いた物づくりをしたい。飾って貰うより使って貰いたい。暮らしの中でふと色だったり柄だったりみて気持ちよくなって貰えたらと。最近、洗面所を開けた時に、自分の手拭いの色がパッと目に入って、ああ頑張ろうと思える瞬間があった。自分の作品で、上手く色の出た物は好きです」


sometaeさんもやはり、誰かとのつながりの中に自身の作品の意義や喜びを見出してた。


「自分の柄を面白がってもらえると嬉しいとか、そういったことがつくる動機ですね」

 

まず、自分の作品を好きだと思える瞬間があり、その好きを誰かと共有できること望む。純粋な動機だと思った。



時間は10時を過ぎていた。活気のあるブースの前には人だかりの出来ているところもあった。

そんな時僕は、会場に新しい景色を見つける。

それは、正面の鳥居前に縦に走るエリア1〜5を、横に逸れるエリア6の風景だ。

毎回この道からの景色は、人がやや少なく、そしてどこか空間が間延びした感じに見えていた。しかし、今日は違った。そこには、道の両脇にあるブースの間にたくさんの人が詰まっている感じがあった。

スタッフの間でも、毎回このエリアをどう見せるか?人をこのエリアにどう誘導するのか?ということが話し合われている様だった。今回はブースをジグザグに、そして道の前面に出る様に配置を凝らした様だ。そのアイディアが見事形になっていると思った。



エリア6、フードエリアを抜け、境内を回り、次に僕は寄木細工の作家さん

OTA MOKKOさんにお話しを伺った。


20131104-5.jpg


OTA MOKKOさんは、いつも家族で各会場の手創り市に参加してくれていた。

このARTS&CRAFT静岡の良さを聞くと、


「広くてのびのびしていてゆっくりしていますね。木漏れ日の下という、シチュエーションも好きな点のひとつです」

「そして、家族でいても窮屈な思いをしなくてもすむ」


家族、特に奥さんとの役割分担のようなものがあれば、と僕は聞いた。ご主人が応える。


「僕がひたすらつくる。で、一人で出来ない作業を手助けして貰うこともある。工房兼お店をやっていて、店長は妻。責任分担をしないと。どっちもなーなーではいけない」

 

ひとつの家族としてご主人を支えるOTA MOKKOさん家族。そこに対する思いを聞いた。OTA MOKKOさんは言う。


「家族を巻き込んでやろう、と思って始めました。絶対手助けが必要になるんで。そして計画通り進んでます(笑)」


もともとは施工関係の仕事をしていたOTA MOKKOさん。手仕事が好きというのがあり、転職を考え、職業訓練校に通い、そこから小田原の伝統工芸、寄木細工の道に入ったという。


「そう言うとカッコいいストーリーみたいに聞こえますけど、寄木細工の仕事を始められたのは、ハローワークのおかげなんです。たまたま求人が出ていて、そこから、というレアなケース。普通は、職人さんに弟子入りを申し入れて、何度も断られたりしながらようやく始められるかどうか、という感じなんですけど」


そこにはどの位の期間いたのですか?


「8年」


その期間は長かったですか?短かったですか?


「長かった。最初、2、3年で独立してやろうくらいに考えてたんですけど。この世界は、10年で一人前と言われていて。50代でも若手なんです」


そんなOTA MOKKOさんに親方さんから学んだことや口酸っぱく言われたことなどを聞いた。


「仕事は早く、丁寧に。これは良く言われましたが、そんなに口で言う方でもなかったので。あとは、常に新しい物をつくる。伝統的な技術を使いつつ、新しい物をつくっていくこと。寄木細工はお土産品というイメージがあるので。宝石箱とか、ペン立てとか、決まった物がある。そこを脱出するのが大変で。僕、ボタンをつくったのが初めてなんですけど、全く新しい物をつくりたいですね」


今、つくってみたい物は?


「寄木の家具。大きな家具ですね。昔はあって、それを海外に輸出していて。またそれをコレクターが逆輸入するというパターンがありますね」


物をつくる動機や喜びはどこから来ますか?


「もちろん、食べてく為(笑)喜びは、つくって、買ってくれた時も嬉しいんですけど、また僕のところに来て買ってくれる、ファンになってくれると嬉しいですね。ボタンを買っていって、洋服に付けてくれていた時とか」


物づくりにおいて気を使っているポイントなどあれば?


「色合いですね。つくった物を常に新しい感覚で見て貰いたいので色合いを工夫をしています」


一点物ということですか?


「そうですね。逆に前作と全く同じ色合いの物を、と言われると困るのですけど(笑)」


物づくりで、やる気がでない時もありますか?


「二日酔い、夫婦喧嘩(笑)迷い、自信がなくなるときってありますよね?このままの方向性でいいのかって?」


そこから抜け出すのはどんな時ですか?


「時間が解決してくれる。か、手を動かす」


すかさず、簡単な言葉でそう言ったOTA MOKKOさん。その口調に、OTA MOKKOさんの、つくり手としての経験値を見た気がした。次に僕はOTA MOKKOさんに将来の夢を聞いた。


「一生使って貰える物、受け継がれていく物をつくりたい」


代々ってことですよね? 木の性質を考えつつ?


「劣化はもちろん木の性質として考えつつ、味を重ねながら、愛される物をつくりたいです」


何か言い足りないことがあれば?


「僕は2、3年で独立してやろうと思っていたけど、下積みの時代って大切なんだってことを今に思います。物づくりってポンって出来るものではないので」


この言葉には僕自身戒めを感じつつ、僕はOTA MOKKOさんのブースを後にした。


20131104-6.jpg


12時前、出島の清水美紅さんの絵を観に行くと、その白い布の左上に、ひとりの少女が現れていた。少女は、跳んでいるのか? または跳ぼうという瞬間なのか? その線に力がこもっているのを僕は感じた。

絵の前には三脚に立てられた一眼レフカメラがある。手創り市写真部の布田さんがコマ取りの撮影を仕掛けつつ、自身も別のカメラでその足を使い、アングルを変え、絵を取り続けているのが目に入った。



清水さんのライブペインティングを後に、次に僕は、夫婦で来てくださっているお客さんにお話しを伺った。


「ここに来るのは四回目、友人が出展している。イタリアンレストラン、サレペペさんの普段からの常連客です」

「普段はパスタを食べに行っています。毎日でも行けるような優しい味。この市ではお惣菜を買いました」


ブースを見て回っての感想は?


「賑やかしいにもなるし、頑張れよ、という気持ちにもなる。あと、グッとくる品物との出会いがいい」

「木のランプを買いました」

 

ナカオランプさんですね?


「そう、色合いがいいでしょう?」


「今日、歩いていて思ったのは、このイベントは、天候に左右されるのだろうなということ。一年前、来た時は寒かったので、一日は居られないだろうなと思った」


最後に要望などあれば?


「新しい、面白い物、ユニークな物を選考ではなく、優先で入れて欲しい。もっともっと、変わった物が見たいです」


&SCENEの選考会では、申込書の写真がいまひとつだとしても、実際ブースに出て貰ってどんな展開を見せてくれるのか?という部分に期待して、新しい作家さんや、今までにないジャンルの作家さんを積極的に取り上げる場面もある。申込書の写真という物は選考に大きな影響を与えるが、僕らが見ているのはそこだけではない。



午後二時を回った。が、境内はたくさんのお客さんで賑わっていた。

「この時間を過ぎてもお客さんが引けないのは、このイベントが定着してきた証拠かな」

そう語るスタッフの橋本さんに、今回は、ARTS&CRAFT静岡独自の企画、正面鳥居前の小屋をギャラリーに見立て展開した「MY CUP is ...」の話を中心に伺った。


20131104-7.jpg


「春におやつ企画(まちきれない!おやつセット)が先行しているので、そこにつながるような企画で、カップ。カップは、コーヒーカップに限らず色々な種類がある。買ったカップには、ドリンク50円オフのタグが付いていて連動していける。そして、この企画と連動する飲み物を珈琲にしたのは、ATRS&CRAFT静岡で特化している飲み物が珈琲だから」


この企画のコンセプトは、お客さんと作家さんをつなげる、というものだと言う。これは以前からスタッフたちがやりたいと思っていたコンセプトだ。


「さらに、スタッフもつなげたかった。壁にスタッフのカップを写真でデーンと貼ったりとか。統一感を出すのが難しそうだけど、そういうことまで、バタバタで手が回らなかった」


橋本さんは、今回初めて「MY CUP is ...」を通じて「企画」というものに関わった。


「スタッフが企画をやるって今までなかった。小屋で企画をやるのは、初。段取り、ばたばただったけど、ここまでは楽しかった。企画者全員、違う仕事、同じ場所に住んでいる訳ではないので、ずっと同じ関わり方が出来る訳じゃないけど、それぞれが今できることをやって、調整しつつ形になった。思ってたよりお客さんも入って、カップも売れて、どのくらいの売り上げかっていうのは、平均がある訳じゃないからわからないけど、成り立つところまで持っていけた。不特定多数のお客さんがいて、商売をしてる作家さんがいて、それなりに最低限のことを求められる。そこはどうにかクリア出来たかなと」


今回の企画の反省点は?


「展示方法、作家さんへの連絡とか、詰めれてない。段取り、下準備、もっと出来てたかもね。しようがないといえば、それまでだけど、しょうがないで終わらせたら意味がないなじゃないですか? もうちょっと出来たかもしれないな?」


しょうがないで終わらせたら意味がない。橋本さんらしい前向きな言葉だ。そこに彼女や、今回の企画ののびしろを感じた。


今回の企画から、本格的に「企画する側」に回るスタッフも増えたATRS&CRAFT静岡。そんな中で、スタッフ全体を見渡す意見を橋本さんに求めた。


「最初の世代、川ちゃん、万記ちゃん、私ぐらいまではまとめようとする。そのあとの世代のスタッフは、聞き役か、自己主張タイプ、と言うと言い方悪く聞こえちゃうかもしれないけど、みんなそれぞれの個性があってそれを全面に出せる人と、役割を与えたらそこでバーンと力を出せる人とがいる。仕事の都合で打ち合わせに来れない人たちって、自分が今更何が出来るか? って一歩引いた所から見ちゃう子たちもいるし。それって、みんなが本職な訳じゃない、それはそれで間違いじゃないし、名倉さんと同じ力の注ぎ方って出来ないから、それは当然でいいんだけど。言うことを言う子たちと、聞く子たちとそれだけじゃダメなんだよね。言うだけじゃ、荷物置いてった状態になるし、それを聞いてる、見てるだけじゃ、その荷物ちらかったまんまだから。それを一カ所にまとめて、いるいらないの選別を出来る人が必要だけど、レギュラーでいるメンバーでそれが出来るのって、川ちゃんと私なのかな?って。みんなそれぞれ言うけど、最後の押し、「こうしよう!」が言えない。で、結局名倉さんが決める。それじゃやっぱりダメじゃない? 最終決定権は名倉さんかもしれないけど、せっかくやっている以上、言いたいじゃんね。やっている以上。それぞれ言っていいのかな? やっていいのかなって。じゃなく、とりあえず、言ってみて考えればいいんじゃないかな? その考えをまとめる人が出てくればいいんじゃないかな? それは名倉さんが育ててくださいね、とは言ってるのだけど。みんな出来ない訳じゃないと思うし。ただやり方をしらないだけ」


それは今回、率先して橋本さんが「MY CUP is ...」の企画に関わろうとしたことと同じ意味だと僕は告げた。やるか、やらないか、そこに立つか、立たないか、だと。


「全員が何かやらなきゃならないとは思わないけど。自分の生活犠牲にしてまで、とは思わないし、せっかくいるのだから楽しまなきゃね。やりたいからやる。やりたいことやれるかもしれるんだから、とりあえず言ってみよう。自分が実行出来なくても、その意見が反映さえたら、それって多分誰だって嬉しいと思うんだよね。一歩前へ、って感じだね。みんな」



次に話しを伺ったのは、2011年秋からスタッフとして入った阿井さんだ。

今回阿井さんは、「まちきれない!おやつセット」の企画にも関わっている。


20131104-8.jpg


「私が主にしたのは、作家さんへのご案内メールのやり取り。作家さんとやり取りするのは初めてで。送るのに緊張しました(笑)でも、作家さんみなさん乗り気で、こちらが提案したものに乗ってくれると楽しいなと思いました」


阿井さんはもともと、何か物をつくっていたのですか?


「美術系の大学にいました。デザイン科。広告とか商業的な作品を主に」


デザインの醍醐味って、何だと思われますか?


「何かがあって、欲求されて、それに応える。需要がないと成り立たないというのもある。

自分がどう応えるか? 答えがひとつではないところが面白い!」


そのデザインの腕をATRS&CRAFT静岡内で活かしたいと思いますか?


「今やっている仕事とのバランスが取れれば……。バランスが取れないとどっち付かずにもなってしまうし。それは嫌なので。でも、やれる環境にあればやりたいですね。時間が、と言っていてはいけないのですけど」


そんな阿井さんに、今後、スタッフとしてどうありたいかを聞いた。


「お客さんと作家さんが手創り市でつながる、それがスタッフの楽しみ。だから、デザインで、つくってる人を支える、つくる自分でもありたい。そこがかみ合えばいいと思いますけどね。スタッフとしても普通に楽しいけど、今まで自分がやって来たものが重なるような」


橋本さんの言葉にもあったように、阿井さんにもまた、一歩前へ出たいという欲求があるように思えた。スタッフはみな、それぞれの仕事や事情を抱えている。その中で出来ることを模索しているのが、阿井さんからも伺えた。個人がそれぞれの特徴、特性を活かし、それが全体として回っていく様になるには何が必要だろうか?

&SCENEの場合は、募集の始めから「企画をやりたいと思っている人」という条件があった。現に、&SCENEでは、それぞれがそれぞれの特性を活かし、ワークショップやライブ企画に主体的に関わりを見せている。もちろん、企画を出し、それを実行していくのはそう簡単なことではない。話し合いの上で、アイディアがすかさず却下されることもまれにある。そんな時は単純に凹みもするが、でも、みなの中心には&SCENEを良くしていこう、という意志が通っているからこそなのだと思う。そこに厳しさがあって当然なのかもしれないな、とも思う。



次に話しを伺ったのは、女性二人組のお客さんだ。


「はじめて来ました。ネットでたまたまこのイベントを見つけて」

「お金が足りなかったです。今度は10万くらい持って来ようと言っていて(笑)」


たくさん買い物していますね!


「真鍮のネックレス、指輪、ハーブティー、あとは飲んだり食べたりして」


作家さんと話しますか? 


「また来ますか?って作家さんに聞いたら、選考が通れば来ますって(笑)」


「真鍮を自分でつくってみたいので、作家さんにつくり方を聞いていました」


何か要望などあれば?


「飲み物がもっと欲しかった」

「マップを見ても、現在位置、どの方向かはわからなかった」


他には?


「半年にいっぺんじゃなくて、四季それぞれにいっぺんやって欲しい」


お二人は普段から手づくりの物は買ったりしているのですか?


「はい」


その魅力は?


「人と被らない」

「欲しい物を買うという感覚ではなく、実は無意識で欲しかった物を買う。インスピレーションですかね」



20131104-4.jpg


最後に話しを伺ったのは、フードエリアで梅干しを販売しているうめぼしの松本農園さんだ。


ずっーとお客さんが切れなかったですね?


「珍しいことをしてるなって、寄ってくれたのかな?」


梅干しっていう物を色々なパッケージの仕方で売っていくって面白いですよね?


「そうですね。試食、食べ比べ、味を見て買ってくれるんで、それが珍しいのじゃないですかね?」


梅をつくる時、木と話すということをですが?


「梅は正直と言いますか、木の状態がすぐ枝や葉に出るというか、目が離せない。僕もまだまだ全部話しを聞ける訳じゃないんですけど。殆ど毎年、色んな気象条件も違うし、土の状態も常々変わっていくんで、梅とか果樹の木になると、一回失敗してしまうと、20年、30年、取り返しのつかないことになってしまうので。代々受け継いで来た物を大切に育てています」


常に木と話しつつ、慎重にですね。あと、梅干しは昔ながらの天日干しということですが?


「ビニールハウスなど効率優先のものには、良いところもあるけれど、悪いところもあって。本当の天日干しじゃない。品質や、味が少しずつ失われているというのがあるので。だから、昔に戻って、天日干しをしています」


100年以上続く家業だと聞いてますが、松本さん自身、それを継ぐことに抵抗はなかったのですか?


「都会にも憧れた次期もあって、コンピューターの勉強しに行ったりもしたんですけど、親父が情熱的な人なのでその背中見ていたら、やはり梅だと思い、戻って来ました(笑)」


周りの農家の方たちとはどんなつながりというか、関わり方をしているのですか?


「今まで通りじゃダメだな、という意識の人たちがたくさんいて。やる気のある人たちばかり集まる場っていいですね。そんな時、刺激になります」


「僕たちもつくってるだけで卸は基本、任せていたので、こういうイベントに出て、目の前で試食して美味しいっていって頂けるとそれは本当に嬉しいですよね」


最後に、要望などあれば?


「搬入時間がもう一時間遅く出来たら……。遠方から来てるものですから。といっても難しとは思うのですが」


何か言い足りないことがあれば。


「手作り市というものは、本来昔からあったもので、それが一回衰退して、それがもう一度戻ってきた。それは僕ら農家と同じなんです。今、再び、無農薬、有機、自然のものが農家に求められているのかなと」


思わぬところから、松本農園さんとARTS&CRAFT静岡の共通項を見た気がした。松本農園さんのいう、「手づくり市はもともとあったもの」という言葉に、僕は、冷めたコミュニケーションではなく、人と人の熱のあるコミュニケーションが通う場所を想った。

手創り市の醍醐味に、お客さんと作家さんとの対話があげられる。作品という作家さんの分身のような物を通じて、語り合い、つながる。その感覚が僕にはとても貴重なものに思えるのだ。

それが松本農園さんのいう「もう一度戻ってきた」という感覚でもあると思うのだ。



うえおかゆうじ


(2013年秋季ARTS&CRAFT静岡ルポ:後編(10月13日)につづく) 





手創り市・大人の修学旅行日記(2013年5月)



2013年5月25日(土)〜26日(日)

うえおかゆうじ



「手創り市・大人の修学旅行」。


そんなニュアンスで、手創り市スタッフ一同には、年に一回、長野県松本市で行われる日本一規模の大きな「クラフトフェア松本」を中心に、長野に遊びに行くという恒例行事があるのです。

その行事も今回で三回目。今回から新たに&SCENEのスタッフもメンバーに加わり、雑司ヶ谷手創り市、ARTS&CRAFT静岡と三会場からなる計15名のスタッフが長野の地を訪れました。

これは、その模様を僕の視点から追った「日記形式のルポのようなもの」になります。

(ルポの要素が入っているのは、スタッフに、

 ただの雑談ではなく、取材として色々な話しを拾わせて貰ったからです)

どうか最後までお付き合いくださいまし。



2013年5月25日(土)東京から車一台、静岡から車二台で集合した松本は、晴天のカンカン照り。五月最終週だけあって、フライングした夏をひしひしと感じさせます。

スタッフは、クラフトフェア松本会場の入口で一度解散。自由行動が始まります。

僕自身、今回二回目になるこのクラフトフェアですが、前回同様、入口テント付近の人の出に圧倒されつつも、歩みを進め、道を横にそれ、会場内へとさらに進んで行きました。

そこでまず目に入ったのは、金工作家さんのブース。作品を「売る」という見せ方ではなく、「作品を展示する」ということに特化した現代アートのようなブースづくりに興味をそそられ、作家さんに声を掛けました。


「クラフトフェア松本は、ブースの幅や大きさをある程度自由に

 取っていいんですよ。だからこういう見せ方が出来るんです」


階段状になった白い什器の上に、まるで、上空から都心の人混みを見渡すかのように、金属で出来た小さな動物だちが行進をしている。ひとつひとつの作品ももちろん買えるのだろうけど、やはり「買う」という意識の前に、その展示の壮観さに見入ってしまい動きを止めてしまう。


そんなブースとの出会いから始まった今回の僕の松本。さらに歩みを進めると、鉄を叩くような金属音と、人混みが見えました。その人波に入ると、そこは、鍛冶職人たちのデモンストレーションスペースで、そこに即席の鍛冶場がつくられており、鍛冶場の隣には、鍛冶職人たちのプロフィールが印刷された、大きな札が掛かっています。その札には、職人の顔写真(すごく陰影が写し出されていて、味があるんです!)と、彼らの好きな言葉などが書かれていて、その札から職人を選び、鍛冶の仕事をデモンストレーションしてもらうというシステムになってました。

なんて、エンターテイメントに富んだクラフトフェアだろう!とこの時、つくづく思いました。

後に、&SCENEの大庭さんともこのブースのスペースの話しをして、彼女は「つくることそのものにあるエンターテイメント性を上手に見せていた」と言っていました。

なるほど。共感です。


会場をぐるりと回ると、雑司ヶ谷やARTS&CRAFTにも出展してくれている作家さんも何組か見掛けました。話せる隙がある作家さんとは少し話し、しながらブースを回っていくと、入口から奥手の、芝生の地帯に、直接地面に陶器の作品が並べられているブースが目に入りました。その瞬間、あ、これはまさか?!と思ったのですが、そのまさかで、以前アトリエ訪問でお邪魔させて頂いた作家のこばやしゆうさんのスペースだったのです。


ゆうさんと僕は同時に互いを見付け、挨拶をし、「また泳ぎに来ますか?」と声を掛けて頂き、僕は「夏には行きたいです」と答えました。

作品を観て歩くと、20センチ四方の正方形の平皿が目に付きました。何故目に付いたか? それは器としての機能性に惹かれたというよりも、一枚の絵を見付けた、そんな感覚です。

そこには、逆光で影絵になった砂丘と、薄い肌色の夕焼けが描かれているように思えたのです。


迷わずそれを購入し、ゆうさんに「これ逆光の砂丘みたいですね」と言うと、ゆうさんは「ひっくり返すと夜の砂丘になりますよ」と平皿の向きを変えて教えてくれました。

そんな、思い出のひと品を手にした僕は、その後、二週、全体のブースを回り、会場を抜け、車を止めた駐車場の近くにあるコンビニに寄りました。まだ集合には時間があったので、僕はコンビニの店員さんに「このあたりに面白い場所ありませんか?」と聞き、「時計博物館がおすすめです」という情報を得て、一人、時計博物館に足を運んだのです。


そこには、16世紀頃の西洋の置時計から、現代、そして未来を空想させる変わった時計まで、ゆったりと展示されていました。三階建てのその博物館を、ゆっくり観ていくと、三階の奥の部屋からクラッシック音楽が聴こえて来ました。耳慣れない、少しくぐもった音質のそれは、蓄音機からのもので、偶然そこでは、蓄音機の視聴会が行われていたのでした。


普段、CDなどのデジタル音に慣れ、クリアな音質を求めることが日常になっていたことを、ふと気付かせてくれる、そんなやわらかくて丸みのある音。身体に触れても音の尖りがない、そんな感触を僕は受けました。


やがて、蓄音機の視聴会が終わると、僕はみんなの集まる駐車場へ。そこには、先に待っていた雑司ヶ谷のスタッフ、三坂さん、土屋さんがいました。二人に、今の雑司ヶ谷での活動について話しを聞きました。


まずは、三坂さんです。七月の大鳥神社で行われる企画「大鳥神社で夏をたのしもう」に関わっている彼女に、その企画のコンセプトから聞きました。


「夏は暑くて集客力が下がる面もあります。そんな中、その時期ならではの特化したものをやりたい。テーマを「あお」にして、今までにない大鳥神社を表現したい。大鳥神社全体を「あお」いう空間で表現したいな、と思っています。まだ詳しいことは言えませんが、ワークショップもやります。午前と午後で違うことを」


三坂さんの役割は、主に、作家さんへのお声掛け、スタッフ全員での「あお」出展者の選考にあたるというもの。


「今までワークショップ会場としての大鳥はあったけど大鳥全体を使って何かをやることはなかった。それが楽しみだし、そこを頑張ります。変わった「あお空間」を皆さんに観て欲しい」


最後に三坂さんに対して「あお」のイメージを聞いた。すると彼女は、


「質問の答えは、後に発表するので楽しみにしていてください」

と言って笑った。



次に話しを聞いたのは雑司ヶ谷新人スタッフの土屋さん。

「スタッフとして入ったのは今年の2月。まだまだわからないことだらけです」

と前置きをして彼女は話し始めた。


「スタッフになって、作家さんと濃い話しが出来るようになった。何故作つくることを始めたのかとか?」


お客さんの時は出来なかったのですね? その意識の違いはスタッフになってから変わった?


「もともと聞いてみたったんですけど、そんなに突っ込んで聞けなかった。スタッフになったからには!顔見しりになれるようにと」


クラフトフェア松本の感想は?


「広くて見切れないですね。ガラス系の作家さん、風鈴が夏らしくて良かったです」


何か買いましたか?


「いいなと思っても、手が出なかった。欲しいと思ったのは白いお皿。惹かれた理由は使い勝手。自分の経験からして、見た目だけ良くても使えなかったら物が可愛そうというのがありますから」


二人の話しがひと段落ついた所で、手創り市スタッフ全員が駐車場へ集合。

そして、また車三台に分かれて、今度は宿泊先の長野市善光寺近くにあるゲストハウス、

1166バックパッカーズ」へ。


坂道の途中にある木造二階建てのそのゲストハウスは、「ゲストハウス」というだけあってか? 親しい友人を招き入れるような飾り気のなさがとても良かった。


一同は部屋分けをし、荷物を片付け、そして夜の食事会へ。宿から歩いて十分位のそのしゃぶしゃぶ屋さんで、みなめいめいに談笑しながら、たらふく食べつつ、三会場のメンバーが程よく入り混じりつつ楽しい時間を過ごしたのでした。


そして宿に帰ると。手創り市遠征旅行恒例の、名倉くん主催によるトランプ大会が始まったのですが、主催者本人が寝落ちしていまい、その夜嵐吹き荒れることなく過ぎ去ったのでした。



そして二日目の朝、5時前に起きた女性スタッフたちと静岡のスタッフ、圭吾くんは、善光寺にお参りに行き、その間、宿に残った、静岡スタッフ橋本さんに、今回の松本のこと、そして今現在進行している静岡手創り市の企画のことを聞きました。


クラフトフェア松本で印象に残ってることは?


「静岡の会場をやっているだけに、松本の会場の車事情が気になる。去年よりも車に対するスタッフの注意が少なかった気がする。去年は、アナウンス?の放送が出てた。近隣のご迷惑になります、とかね。でも今年は会場の周りの警備員の数も少なかったし。松本と、静岡の会場は違うものだけど、応用出来る方法があるなら知りたかった。周りがやって良いことは真似した方がいいので」



この間、春のARTS&CRAFT静岡の反省会があったでしょう?

その感想を。みんなからすごく意見が出て、話しが広がったって聞いてますが。


「いい反省会が出来たと思います。基本的には今までに出てた議題を良くすること。会場の配置やジャンルの並べ方、エリア5にワークショップを集めようとか、エリア6は奥行がないから横長にブースを展開してみようなど。名倉さん発の意見ではなく、みんながしゃべっていた」


最近の静岡スタッフの特徴ですよね?


「わたしもそう思うじゃないくて、じゃ、こうしたら、ってみんな言えるようになった。

それはなんでか?それぞれ意識の変化、言いやすい雰囲気に誰かさんがしてくれてるからかも

しれない」


あと、これ聞きたかったのだけど、前の静岡ルポの後編で、「クオリティ」についての話しが出たでしょう? 橋本さんにとってその言葉ってどういう風にとらえてますか?


「人それぞれ好きな物なんだったらクオリティって高いのかな。同じ値段の同じようなものを二つ比べても、どちらかを選ぶポイントって人それぞれあるから」


「例えば、スーパーブランドの商品はむちゃくちゃ値段が高いのは、名前の価値もあるけど、職人さんたちが関わって縫製のひとつひとつチェックだったりとか、厳しくされてて、良いものだから値段が高い。100均で売っているバックは縫製もバラバラで、工場で大量生産。使い捨てカメラとデジタル一眼の違いみたいなものなかな? でも、最後は感覚になっちゃうと思う」


「ARTS&CRAFTのクオリティが高いと思うってお客さんが言ってくれるけど、それが、好みが似通ってるからかも。ARTS&CRAFT静岡を観てみると、全体的に雰囲気が似ている。静岡スタッフは静岡のコンセプトを持って選考しているからかもしれないのだけど、他の静岡のイベントはもっとごちゃごちゃしてる。もちろん、他がどうこうではなく、ARTS&CRAFTの統一されてる感じが理由でクオリティが高いと言われいるのかも」



次に同じく静岡スタッフ、鈴木一生くんに話し聞きました。


クラフトフェア松本の感想を?



「年来層が高い。だから色々なことが出来る。会場もそうだし、休めるところもあるし、見物となる古い建物もある。別行動がしやすい。パントマイムがあったりで、いい意味での後楽園、エキサイティング。細切れでなく全体がつながっている印象を受けました」


この間の静岡の反省会ではどんな発言をしたの?


「『まちきれない!おやつセット』のアイコン案ですね。次に発展していくには、アイコンを修正した方がもっと良くなると思いました」


「あと、護国神社と密になれるような、本堂の方で何かできたらという案。芝生を使って。でも、実際には使えないであろうとは名倉さんには言われましたけど。お客さん同士の交流の場、買って来た商品を見せ合うような、持っているものを通して知り合うようなスペースをつくれたら」


人と人をつなげるって一生くんのテーマだね。あと、今の静岡スタッフの現状というか、「静岡が動き出した」という言葉を耳にするんだけど。


「いいなと思います。今回の春のシミュレーションのあとの食事、そこから意見を各自で言うようなった。僕が始め入った時に、みんな自分の意見を言ってないな、と気になってた。今はみな、自分の意見言ってるなと思う。反省会では特に。人から言われれば楽。私はこう思うって言うようになれば、普段の生活の中でもアイディアは拾うようになる。日常世界が変わっていく。「僕は」というものが入ってくる。これからの手創り市が面白くなっていく。まとめる名倉さんは大変だと思うんですけど」



次に話しを聞いたのは、前回の春からスタッフに加わった藤本さん。


三会場のスタッフが集まってますけど、そこで感じてることを聞かせてください。


「イベントが好きなんだなって。そういう感性を持ってる人が集まってるから運営が上手くいってるように感じます」


反省会ではどんな話をしましたか?


「これからこうしたら、こうなるという具体案を。メガホンを用意しようとか。スタッフ間でのトランシーバーじゃお客さんに伝わらないから。あと、小屋を使った新しい展示の方法を考えるいい反省会になった。みなさん、手創り市の仕事に誇りがあって、さらに良くしようという行動が見れて、右に同じじゃない」


むすぶ・鷹匠(仮)も始まりますが? そのコーディネーターをやるんですよね?


「鷹匠はうちの近所なんです。好きな街だし、選ばれたらいいなと思ってたら選ばれました(笑)鷹匠には、雑貨屋やギャラリー、デザインマンションや物づくり長屋があったりする。物づくりに特化したした街なんですよ」


最後に、静岡ルポ後編にあった「クオリティ」という言葉について何か意見があれば?


「お客さんとか、スタッフとかも、いいものはクオリティ良いよって素直に言ってもいいんじゃないかなと。スタッフのサイドだから、言っちゃいけないとは思わない。私にとってクオリティとは「らしさ」。独自性、世界観が確立されている、その人が作る作品のみが達し得るオリジナリティ。その人にしかつくれないなという物を指します」



次に話しを聞いたのは、静岡スタッフの圭吾くん。


「松本に車で来る途中、全員でLINEをやってました。静岡スタッフ共通のアカウントをつくって。そのやりとりが楽しかった。メールだと返信が遅かった人が頻繁に返してくれたり。やり取りが軽くなった」


今のARTS&CRAFT静岡はどうですか?


「もう出来上がってる、かなりいいマーケットじゃないですか?それをもっと良くしていくところ、楽しいところじゃないですかね?」


反省会で発言したことは?


「トイレの雰囲気が会場と違うので。少し暗い。そこを変えていきたいし、トイレへの案内を出したりしたい。鈴木くんがそう言ってたので、僕も共感して。わかりやすく案内出来る方法はないかな? と考えてます」



クオリティという言葉について思うことを。


「つい使ってしまうけど、違和感はある。自分の中で物事を噛み砕いて、クオリティという言葉を使わずに伝えれば伝わることってあるじゃないですか?」


なるほど、ありがとうございました。



静岡メンバーへのインタビューが終わると、僕ら男子四人(名倉、一生、圭吾、うえおか)は近所にあるイートインのパン屋へと朝食をとりに出かけた。


そこから一日の流れが変わり始める。


先程話しに出た、静岡スタッフで共有しているLINEに、僕を被写体にして面白いことをやろうという企画が立ち上がったのだ。


「うえおかさん、両手をカニみたいにしながらパンを美味しそうに頬張ってよ」


悪ふざけが大好きな僕も、三人のアイデアマンの言う事をほいほいと聞く。


パシャリ。写真を撮り、LINEに送り、キャッチコピー張りのコメントを入れる。


「次は、両手にアイスコーヒー持って、笑って」

「カレーパン食べながら、決め顔して」


次から次へと写真を撮り、LINEにそれとコメントを入れる。


「店員さんありがとう!」

「食いしん坊万歳!」


静岡にいる高山さんは、「やめてよ、娘泣くから!」と、そんなおふざけにもコメントを返してくれる。


パン屋を後にした僕らは、みんなと一度合流し、今日の自由行動の時間と集合場所を決め、各々の行きたい場所にばらけることになる。


しかし、男子四人はばらけない。しかも雑司ヶ谷スタッフの女子・倉田さんを加え、善光寺周辺の町を先程のノリで真剣にふざけ合いながら、半日を回ったのだ。


「うえおかさん、廃墟をの前に立って」パシャリ。

コメント:「うちにおいでよ」


「うえおかさん、山の前で山のポーズして」パシャリ。

コメント:「やほほーい」


「うえおかさん、女の子ナンパしてる真似して」パシャリ。

コメント:「きみを見付けたよ」


「うえおかさん、女の子に逃げらたから、今度はポストに抱き付いて」パシャリ。

コメント:「もうポストでいいや」



そんな、LINE遊びを間に挟みつつ、善光寺の周り、情緒ある白壁の町を回ったのでした。

一見このただの悪ふざけにみえるLINE遊びも、やっぱり手創り市スタッフだなぁーとうなりたくなるような、アイデアの連発、写真の構図、コメント一文字に対しての推敲、その熱の入れようは半端のないものでした。

後に一生君が言います。

「あの遊びは、今後の創作のヒントになりそうです」

ええ、僕もそう思いました!


そして一向は、午後一時に一度宿に戻り、静岡スタッフの橋本さん、万記さんと合流し、車で20分程長野市を南下し、「Kado(カド)」というギャラリーと「Orche(オケ)」という広々と空間を取った雑貨屋に行きました。


「Kado」では、「旅するギャラリー」という益子の陶芸家三人による展示会が開かれていました。その三人の中には、ARTS&CRAFT静岡、雑司ヶ谷、そして&SCENEにも出展してくださっている近藤康弘さんも加わっていたのです。作家別に展示されている訳ではなく、互いに混ざりながら並べられているその中から、近藤さんの作品は一目でそれとわかる。そんな旅の偶然に高揚しつつ、企画者の桑原さんとも少しの間お話し出来、充実した時間を過ごせたのでした。



その後「Orche」に立ち寄り、そこが銀行を改装してつくられている様を、目の前の巨大な金庫を見詰めながら間近に体験し、さまざまな作品に眼を通し、そして外に出ると、

「うえおかさん、一緒に写真撮りましょうよ」

と圭吾くんが持っていたiPhonを静岡スタッフの万記さんに渡し、

「一生くんも入りましょうよ」

と言って三人で記念写真をパシャリ。

そして、圭吾くんはLINEのコメントに、


「仲間が出来ました」


と打ち込んだのでした。


こうして、長野の旅は一時終わりとなります。

駐車場で全員で記念撮影をしたあと、静岡組と別れ、僕ら東京組は、茅野市にある「ハーバルノート」という森の中の隠れ家的なハーブ全般を扱うお店に寄り、帰りにハンバークステーキのお店で各々好きなものを食べ、東京息への高速に乗ったのでした。


ここからが帰りの車で交わされた、&SCENEスタッフとの対話です。


まずは、橋本さん。


松本クラフトの感想を。


「お客さんが多いのはやっぱりすごくいいなと思ったのと、ブースによってつくり、幅の取り方が違うのが単純に観ていて面白かった。だけど全体が広く、自由にブースを出せるので、ブースの配置を把握するのが大変だった」


「でも毎回、&SCENEも入口にブース情報を張り出しているだけなので……。わかりやすいのもいいし、探しながら楽しむっていうのもいいし、どっちがいいっていうのではないのですけど」


クラフトフェア松本では、何か買いましたか?


「ブローチとガマ口のバック。買うかどうか迷ったんですけど、&SCENEの時にお財布と携帯とだけ入れて。それをつけて参加している姿を想像して、楽しかったので(笑)やはり決め手は、同じ物はのは二つとない、ということですね」


クラフトフェア松本をまわっていて、&SCENEに還元したいと思ったことは何ですか?


「あったかいご飯があるのはいいなと思いました。素敵な移動販売車が見つかるといいと思いました」


今回、三会場のスタッフが集まりましたが。


「単純に楽しかった。会場によってみんなそれぞれ雰囲気が違うし、それぞれみんな楽しそうで良かった」


各会場の手創り市には、各々のキャラクターが反映されていると思いますか?


「それはあると思いますね。あとこれは要望ですけど、みんな揃うことはなかなかないけど、またみんなで会いたい。今回の遠足みたいに」



次に話しを聞いたのは大庭さんです。


クラフトフェア松本を観て感じたことは


「クラフトフェア松本のスタッフってどんな人なのかな? って。運営の仕方が気になりました。あと、作家さんが、朝来て場所取るシステムじゃないですか?そのシステムが気になりました」


「街に根差したイベントだと思った。それがあるから松本も町ぐるみで盛り上がる。&SCENEスタッフが『谷根千マップ』をつくるのと同じことかな。あと、&SCENEに出て欲しい作家さんをナンパしてました。&SCENEは声かけてなんぼなんで。新しい作家さん発掘してなんぼ」


三会場のスタッフが揃いましたが?


「みんな個性的。それぞれキャラが立っている。&SCENEは頻度高く会ってるから、ほかの会場より意外と密な付き合いしてるのかな?って。みんな同じスタートだから関係性が他と違う。それはどこの会場がどうではなくて、うちらは一年も経っていないのに、仲いいなって」


今、二人が関わってる『meets brooch 』について聞かせてください。


「今回、Creemaさんが主催する『ハンドメイドジャパンフェス2013』で、ブースを3つ使用させて貰い手創り市として出ます。&SCENEの告知や、新しい作家さんとのつながりも期待して。で、コンセプトは、手創り市のいいところって色んな作家さんがいること。それをいろんな作家さん集めて表現できないかな? って。で、最近私、ブローチが好きだから、ブローチがいいかなと(笑)色んな素材、作家さんを集めて、手創り市を表せたらと」


何組くらいの作家さんが出るんですか?


「25組くらい。イメージは一個の長い白いテーブルに、作家さん別に分かれているわけではなく、雑多な感じなんだけど、手創り市のようにブローチが並んでいる」


手創り市のミニチュアみたいなものかもね?


「そうですね」


今回、イラストレータ―の湯本さんがアートディレクションを務めるとか?


「テーブルの後ろに壁面を設置する予定で、そのグラフィックや、チラシのデザインをやって貰ってます。もちろん丸投げでなく、話し合って、『meets brooch 』を表したいいものが出来そうな感じです」


この後、僕と大庭さんは&SCENEのことについて話し合った。松本で感じたことをいかに&SCENEに還元出来るかについて。


大庭さんは言う。松本に出れた、ということをステイタスに、喜びに変える作家さんの姿勢が見えると。そういう風に&SCENEも成長していけたら、と。


僕は言う。&SCENEは音を出せる環境にある。今のお堂のライブ、本堂の厳粛な感じ、何気なく会場に音楽が流れている感じもいいけど、何か音を使った違うアプローチが出来ないかと?

(もちろん今の段階ではそれは思い付かないけれど、とこの時付け加えた)


さらに大庭さんが言う。ミニブースのあの、小さな空間に作品が引き締まっているのもいいが、静岡のように、大きなブースをつくり、ブースの見せ方でお客さんを楽しませるような「ビッグブース」があってもいいかも、と。


そんな風に、各会場が意見交換をし、盛り上がり、行動し、そして三会場が意識し合いつつ高まっていけたらなと、僕らの意見は一致しました。


最後に大庭さんに「クオリティ」について意見を聞きました。


「熱意ですね。言葉でいうのは難しいけど、選考の紙を観ても、ブースや自分の作品をいかに良く見せるたってことがクオリティにつながっていると思う。自分の作品が好きであればあれるほど。自分の作品はホントに良いんですよって語れる作家さんの作品ってクオリティは高い」


そして最後に、松本クラフトに出展していた「OTA MOKKO」さんの作品の写真を僕に見せながら、


「OTAさんで言うと、寄木だけの部分が素敵なんじゃなくて、その他、やすられてる部分のディテールが綺麗だったりする。その寄木を見せるために、ほかの部分やショップカード、作品以外のことにこだわれる人はクオリティは高いと思う」


と言って話しを締めた。


さて、僕の考えるクオリティとは何だろう?


前回のルポでは、僕はそれを「ベーシックな部分で安定していること。また美しいこと。突き抜けたオリジナリティがあること」などを挙げ、見事に「曖昧」の称号を頂いた。クオリティは好みだ、という意見もあるけど、僕はやはり、好みでは片付けられない、共通感覚的な美に対する意識のようなものが、作品を観るときに左右していると思ってしまう。それはどんなものでどんなレベルまで好みを左右するのか? は、正直わからないけれど、それを言葉に変えたいと思いながら、みんなに話しを聞いていました。なんとなく自分の中で「この単語かな?」というのはわかっているのだけど、それを噛み砕いて説明する自信が今はないし、そんな難しい言葉で言い表そうとする前に、もっと出来ることはあると思っている、というのが正直なところです。これからも間近にたくさんの作品を観、感じ、作家さんやスタッフ、日々関わる人や本から学びたいと思います。そしてより具体的な言葉で、観て感じていること、触って感じていることを言葉に変えられるよう努力したいと思います。長い長い日記でしたが、ここまで眼を通して頂き、本当にありがとうございました。


これからも、手創り市をよろしくお願い致します。


うえおかゆうじ


※2013年秋季A&C静岡の開催は10月12・13日。
 お申し込みは7月1日よりスタート!!

ARTS&CRAFT静岡







Profile
New Entries
Archives
Category